さくらの熱量チャレンジ 第3回
「さくらのIoT Platform」の進んできた1年をキーパーソンに聞く
小笠原、江草、山口の3人が語った「さくらのIoT」の軌跡と奇跡
2016年09月09日 08時00分更新
Xアスロンの実験で実現した超高速なIoTプロジェクト
現在、さくらのIoT Platformは山口さん主導の体制に移り、チームメイキングを進めながら、実証実験を進めている。最近の事例だと、熊本で行なわれた「Xアスロン」のプロジェクトだ。
熊本の天草で行なわれているXアスロンは、シーカヤックとスタンドアップパドル、マウンテンバイク、トレイルラン、パラグライダーを組み合わせた陸海空のエクストリームレース。もともと田中さんの元に地元のIT企業からIoT的なところでなにかできないかという依頼が来たことから話がスタートしている。「トライアスロンやトレイルランのような競技って、移動してしまうので、応援がしづらい。ましてパラグライダーは空を飛んでしまうので、選手の位置も順位もわからないので、盛り上がりに欠けるという問題を持たれていました。」(山口さん)。こうした課題を受け、パラグライダーに通信機能を付け、上空の位置情報をリアルタイムにトラッキングすることを考えたのが発端だ。
しかし、電波法上、携帯電話は空を飛ばすことができず、LTEモジュールが利用できないという課題があった。そこで、山口さんは無線免許が不要な長距離通信技術「LoRa」を採用。短い時間の中でLoRaモジュールを開発することに決めた。「LoRaで電波を発信しながら、長距離でちょろっとしたデータを投げて、LTEを基地局っぽく使うというのをやってみたかった」と山口さんは語る。
開発までの時間はほぼ1ヶ月を切っていた。しかし、開発を依頼したエイビットは2週間でLoRaモジュールのプロトタイプを完成させ、さくら側では約10日間でファームウェアとソフトウェアを完成させた。しかも前日にファームウェアの不備がわかったので、現地で全部書き直した。「LoRaの距離と速度を設定できるんですけど、遠くまで飛ばそうとすると、帯域が足りずみんなが一斉に位置情報を送れなくなるんです。でも、現場で試せないので、LoRaの仕様書とにらめっこしながら、前日にパラメーターを決めてましたね」と江草さんは振り返る。
正直、パラメーターの設定を1つミスしていたら、プロジェクト自体が失敗していたという舞台裏。小笠原さんが鹿児島のさくらじまハウスで登壇していたときも、天草でのレースの模様を気にしていたという。「でも、失敗しないほうがおかしい。とりあえずやる」(小笠原さん)というプロジェクトだったが、好天にも恵まれ、LoRaモジュールを積んだパラグライダーは無事空を舞った。
プロジェクトで得たものは大きかった。「LoRa特有のデメリットがきちんとわかったのは大きな成果。LTE以外にLoRaも選択肢に入ってきた」と江草さん。小笠原さんは「山口さんのチームが、どんなに短期間でも折れない心を持っていることがわかった(笑)」と振り返る。3ヶ月くらいならばともかく、1ヶ月という超短期間のプロジェクトはむしろやる価値があるという。
「車輪の再開発」を進めるためのさくらのIoT Platform
現在、さくらのIoT Platformはα版のステータス。秋ごろのβ版開始まで実験と開発を繰り返していくという。江草さんは「その時点では通信モジュールも普通に買える状態になっているはず。現在のモジュールもほとんど製品と同じ仕様なので、β版でサービスを作っていたければ、本番でもそのまま使えます」と説明する。
山口さんに言わせると、通信モジュールもIoT機器そのもの。「通信モジュールも配布したら、それで終わりではなく、ファームウェアの更新でどんどん進化する。どんどんバージョンアップしていくクラウドと同じことがモノ側でも起こりうることが実体験できた」と山口さんは語る。
さくらのIoT Platformができあがると、Web開発者も、ものづくりの人も、IoT開発の敷居が大きく下がる。これはさくらのIoT Platformが両者の間にある処理を担うことで、両者から難しい部分を隠ぺいし、お互いの持っている技術だけでIoTが試せるからだ。「鹿児島のユーザーグループにα版を持ち込んで、IoT作るというニコ生をやったんですが、WebSocketわからないですよという組み込みの人も、I2CはわからないというWeb開発者の人も説明すると意外とすんなり作れた。すごく手応えを感じました」と山口さんは語る。両者が協業することで、迅速にIoTサービスを立ち上げられる。これがさくらの狙いだ。
「クラウドのIaaSのラッキングとデータセンター契約、ネットワークの引き込みを、あえてお客様がやりたいですか?という話と同じです。でも、弊社はそれを生業にしているので、IoTも同じように全部おまかせいただければと思います」(山口さん)。今まで敷居の高かった「車輪の再開発」がどんどん進められるというのが、さくらのIoT Platformの大きなメリットだ。
「20年前はOSにインターネットにつなぐためのソフトウェアモジュールを入れていました。でも、今はハードウェアモジュールがプロダクトに入る時代になった。さくらのIoT Platformを使うことで、ハードウェア屋とソフトウェア屋が自分のやれることで、やりたいIoTプロダクトを作れますということを一番理解してもらいたいですね」(小笠原さん)。
(提供:さくらインターネット)
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