2月20日に小誌が開催したIT・メーカー向けセミナー「大江戸スタートアップアカデミー」より一部を公開。テーマは「無名のブランドがなぜインターネットで飛ぶように売れるのか」。
登壇者は腕時計の製造小売ブランドKnot遠藤弘満代表、オンラインテーラーLaFabric森雄一郎代表、女性向けジャージードレスブランドkay me毛見純子代表。3社はいずれもインターネットを中心に製品を販売するインターネットブランド。
ゲストは三越伊勢丹ホールディングスの額田純嗣氏。司会は大江戸スタートアップの盛田諒。
──無名なのに製品を飛ぶように売っているブランドの皆さまにお話を伺いたいと思います。ゲストにお越しいただいたのは「売る側」の代表、三越伊勢丹ホールディングスの額田純嗣さんです。
額田 ご紹介にあずかりました、三越伊勢丹でバイヤーをやっている額田です。百貨店というと、みなさんイメージのとおり「箱型」と言いまして、場所貸しのような形態のところが多いのが現状です。しかしそういった形を繰り返していると、感度が高いお客さまの心をつかむイベントが出来なくなり、百貨店自体の集客が非常に弱まってしまう。そこに非常に危惧を抱いています。現状を打破していきたいというポリシーのもと、バイヤーの仕事をやらせていただいています。
──初めに伺いたいのは「業界の課題と起業のきっかけ」です。まずノットの遠藤弘満代表ですけど、今まで日本の腕時計って製造小売(SPA)モデルがなかったんですよね。腕時計業界の現状とともに伺えますか?
遠藤 はい。現在ざっくり世界で年間200の時計ブランドが生まれていると言われているんですね。3~5年継続できるブランドは恐らく100社のうち1社程度だと思います。時計メーカーはムーブメントを開発するとなると億単位の開発費用がかかるので、ムーブメントは外部から仕入れて作っているんです。クオーツ時計としては大半が日本のメーカーさんの機械が使われています。そんなこともあり、世界の時計大国といえばスイス、日本という名前が出てくるんですが、時計大国である日本には、半世紀以上も量産型、つまり、グローバルな展開をしているブランドが実は生まれていないんです。
もちろん職人さんが1つ1つ手作りで、1ヵ月に10個だけを作っていますというようなメイドインジャパンの時計はあるかとは思います。実際、リーマンショックの前まではメーカーさんもかなり存在しておりました。しかし現在、メイドインジャパンで1万円台から買える腕時計はグローバル市場からなくなってしまっている。インポートウォッチの販売代理店に長く勤めていたときも世界中から多く寄せられた声だったんです。「メイドインジャパンでデザインが良く、3万円以下の腕時計があれば絶対に世界で売れるよ」と。
これが作れれば確実にいけるぞと。私は今年で41歳になります。大きな子供が2人おりまして、そんなに無謀なチャレンジはもちろんするつもりはなかったのですが、ここはかなり確実だと踏んで始めたと、そんな背景があります。
──続いて、スーツの仕立てをされている森さんです。縫製工場さんも課題を抱えてらっしゃったというお話です。
森 そうですね、消費者からは工場の実態っていうのは見れないとは思うんですが、過去30年で日本の縫製工場は5分の1ほどに減っていて、危機的状況であると。毛見さんもプレゼンの中でおっしゃられた通り、国内で流通するアパレルの「自給率」は3%だと。世界ではメイドインジャパンが人気なんですけど、国内では流通分のたった3%しか生産されていない。この状況は非常に危機的だと考えています。
日本は高度経済成長からすでに30年くらい経っているのに、工場の現場を見ていると、全然IT化されていない。現在に合わないものづくりのスタイルを取っているところもまだまだ残ってしまっている。このままでは競争に耐えられないという実情がある。それも工場が少なくなっている原因だと考えています。ぼくたちは若いベンチャーなんですけど、そういったところを少しずつでも改善していけるよう、工場のネットワーク化から入って工場の現場まで最終的に変えていきたいと思っています。
──以前伺ったお話だと、世の中IT化が進んでいるのにいまだFAXで製造元とやり取りされているっていうのが本当に象徴的な話でした。そこを変えて効率的に運用することで競争力にしていかれると。最後に女性向けのアパレルを展開されている毛見さんなんですが、課題はどこにありますか?
毛見 私の場合は、消費者としてニーズが満たされないと感じていたところに端を発しています。女性のビジネスウェアっていっぱいあるように思えるんですけど、たとえばプレゼンテーションをするとか、ローソファーの応接室に通されたとき、スカートの丈がこれじゃ太ももまで見えてしまうという問題や、大勢のパーティで名刺交換するときの胸元の見え方とかですね。ITや金融、コンサルなど男性が多い業界で働いていると「こうであってほしい」というデザイン上の節度とか機能とかわいげとかの要素にまだ満たされていない部分がたくさんあったんです。それがなかなかアパレル業界でしか働いたことのない人にはシチュエーションとして分からないと思います。
次に、洋服のせいで疲れる、という問題。実際キャリアの女性は長時間会議をしてたり、ほぼ毎日夜遅くまで会食があったり、飛行機や新幹線の移動が多かったりするのですが、長時間機動的に洋服を着るなかで素材やタイトシルエットのためすごく洋服によってカラダが疲れるということがあるのです。とくにジャケットやワンピースなど。でも、実際はデザイナーは男性が多い。すると、「理想の女性像」じゃないけどシルエットのセクシーさとか、かっこよさを重視するのでそのあたりの着てすごして初めてわかる機能性まで配慮できていない。
そして最後に、クリニーニングケアの問題。やはり女性は誰か仕事してる間にクリーニング出して、取りに行ってくれる人がいない場合が多い。自分で仕事帰り、家の近くにある20時までのクリーニング屋に行こうと思ったら会社を19時までに出なきゃいけない。でも現実そんなの無理。深夜宅配してくれるクリーニングもあるけど、「何時何分」まで指定できないからある程度、帰宅したあとメイクも落とさず待ってなきゃいけない。それもストレス。土日は土日でいろいろ朝から外出の予定があるからクリーニングの営業時間の中で自宅周辺にいることもあまりない。そんなにドライクリーニングがボトルネックだったら、家で洗濯して、夜中干しとけば朝そのまま着れる服があればいいんじゃないか、と思ったわけです。
それだけだと「こんなものあったらいいな」の発明王みたいな世界になってしまいますので、マーケットを調査して、定量的にそれらの課題をすべて解消するアイテムしか置いていないワーキングドレスブランドがないことを証明しました。
──いずれも大手さんの隙をうまくついたビジネスだなと感じます。では続いて、気になっている方が一番多いと思います、いかに無名の……すいませんそう言っちゃってるんですが……無名の製品を売っていくかという話です。ゲストの額田さんに伺いたいんですが、ケイミーさんのように名前のないブランドをどうして売ろうとされたんですか?
額田 毛見さんとは1月にイベントをやらせていただいたんですけども、ケイミーさんのお品物を初めて拝見したとき、やっぱりすべてメイドインジャパンであったり、すべて洗えますとか。百貨店で「洗える服出してください」って言われると、困るんですよ。洗える表記しているところは5%もないんじゃないかと思います。特にスーツだったり、ワンピースだったり。先ほど毛見さんおっしゃいましたが、やはりデザイン重視、あとはディティール重視、素材重視、ファッション性を重視すると、機能性は二の次、三の次になる。正直、機能性や日本製など製造国を声を大にして伝えることはあまりかっこよくないっていうのが、我々の中で当たり前だったんです。ただ、毛見さんは女性の視点で「女性が毎日働くウェアが欲しいよね」ということを声を大にしてはっきりと鬱憤を表現し、すべての商品が100%洗えますって言ってらっしゃいますよね。ここのこだわり力っていうのは我々が全くやったことなかったところなので、まずはお客様の関心としてどうなのかな、ということをはかる上でも非常に面白いなと思ったのがとっかかりです。
──百貨店さんには百貨店さんの課題があるんですね。
額田 これは企業というか世の中のマーケットすべてがそうなんですけど、皆さんも企業に入ってらっしゃる方は必ず役割がある。名刺に部署とか書いてるじゃないですか。この部署って、私の場合、「婦人服」の「ミドル」の「スタイリッシュ」とか「トラッド」とかワケ分かんないことが名刺に書いてあるんですよ。これはなんだろうかと言うと、会社の中で役割分担をして、サッカーで言うと「右サイドハーフ」とか「右センターバック」とかポジションを決めるじゃないですか。役割分担でしっかりと「MECE」(ロジカルシンキングの考え方、重複・漏れがない状態のこと)な状態ができていれば、漏れやダブりがなく、しっかりとそれだけやってればうまいこと行くとそういう状態であるならば素晴らしい作戦なんですけど。
まさにサッカーと一緒ですが、どんどんどんどんお客様の消費者ニーズが変わっていったり、スピードが早まっている中で、そのポジショニングの取り方だけでその場所に突出していると、もう「違うところでサッカーしてしまっている」という状況だと思うんですけど。企業はいま「MECEなようでMECEじゃない」ことが一番の課題じゃないかなと思っていて。そこにうまいこと入っていっているのが、今回お三方のケースであったり、先ほど業界の課題ってあったと思うんです。
で、毛見さんの場合は機能性が武器なんですけど、わざとファッション性を出してもらったんですね。伊勢丹新宿本店の4F、シャネルだったり、グッチだったり、ボッテガだったりディオールであったりっていうブランドの中、わざと横に並列してファッションで勝負しにいって。それでいて実は……って風に忍び込ませてもらったんです。その形で勝負して、売り上げも期間中は1位だったんです。ファッションの方々に支持をされていくと、さらなる強みに受け入れられていくんじゃないかなという感覚で勝負をしてもらったというのが、今回仕掛けたときの一番の狙いです。
──ただ、ケイミーさんにせよ、ラファブリックさんにせよ、彼らはもともとネットでビジネスをやっていて、中間マージンを取らないのが強みのビジネスモデルです。逆に言えば、利率を考えると百貨店さんとしてはあんまりおいしい商売じゃないんじゃないか、単純に言えば儲からないんじゃないかと思うんですが。
額田 儲かっているかというと、儲かってるわけではないですね。逆に言うと、利益率であったり、そういう点で言うと、投資という観点です。私に投資はできませんが、売り場、環境、そしてまあいろんな実務という点で。何よりも得られるのはやはり話題性、集客性、そして新しい風。これを社内外に送れるというメリットというのは、すでに金のなる木となっている企業からは、なかなか創出が難しい現状があります。そういう点で言うと、売り上げ・収益という観点という点以外の集客性。その集客はいずれ売り上げになりますので、やはりそういう仕掛けが功を奏しているなと思います。
──たしかに普段、伊勢丹さんに行くことは行くんですが、「徹底的に高いか、徹底的に安いか」に二分化されている現状だと感じています。わたしも高級ブランド好きでよく買うんですけど、高級ブランドと超ロープライスのものを組み合わせている状況です。そこにケイミーさんみたいな中間層が入ってきてくれるのは伊勢丹さんとしても望ましいところなのかな、と感じました。
ネットのブランドを売るという話で見ていただきたいのが、ファクトリエの山田敏夫社長にお借りした写真です。これがメガネブランドのWARBY PARKERっていうアメリカのメガネ屋さんなんですが、元々インターネット発のブランドなんですね。いわば「メイドインインターネット」のブランドでありながら、ロサンゼルスとかニューヨークとかボストンに直営店を構えている。これ、撮影したのは平日で、しかも雨の日だったらしいんですけどめちゃくちゃ人がたくさんいて、とにかく売れている。売れているというか手にとってみなさん見ている。ここで実際に見て、気に入ったものをネットで注文するとそういう風な流れになっている。こういう流れがアメリカではすでに起きていると言うんですね。
他にも、たとえば「bonobos」というショッピングサイトがニューヨークの路面店の一階に店を構えて、そっちも大人気になっている。「まあすごい時代になってきているなあ」という話なんですが、実はケイミーさんやノットさんはリアルのチャネルをお持ちなんですよね。ケイミーさんはインターネット、とくにFacebookでの人気もありますし、直営店なんて持たなくてもいいじゃんという感じもするんですが、グッチやアルマーニに並んで、銀座の四丁目に直営店を構えていらっしゃる。あれはどういう意味があるんですか?
毛見 そうですね、先ほどのプレゼンテーションでもお話させていただいたんですが、そうは言いましても、それこそ無名のブランドを、われわれのそれほど高機能でないサイトでお決めいただくのはちょっと難しいかなと思ったのです。手に取っていただく、試着していただくだけでも、というところで、場所を設けようと発案したのが始まりです。なので、O2O(オンライン・ツー・オフライン)と言われて久しいですけど、元々はオンラインでお買いあげいただく流れを作るために必要最低限の場所がいるかなと思った経緯があります。銀座四丁目、B4出口を出ていただいてすぐのビルにあるんですが、忙しいお客様が、営業のついで、帰り道の途中に寄れるようにと。手に取りやすい場所で、手に取るだけでもいいという空間で始めたところはあります。
副産物として、どんなところが我々支持されているのかとか、どんなものを潜在的に求めているのか。マーケティングの場として機能しています。お客様が、すごくお話になるんですね、ソファに座って。我々の事業のコアな部分はその場で創出されているような感じがしまして、こういったスタイルもなくはないかなと思っているところです。
──最近はネットで消費者の方の声が全部わかるから、別に路面店は持たなくてもいいんじゃないか、という声もあるんですけど、逆にリアルを持たないと、本当のお客さんとの距離感がわからない。
毛見 そうですね。ケイミーで当初あった私への投書ですが、それはどのようなことかと申し上げますと、お客様が来店されてわざわざ最初に「こういうシーンで着るものを探している」とおっしゃったと。そしてたとえば5着試着された。そのあとに販売スタッフにお客さまから「私、どれが良かったと思う?」という風に聞かれたのに「お客様はいずれもお似合いでした!」と申し上げてしまったと。このときのお客様の気持ちはわたしは痛いほどよくわかります。ですがスタッフはそれがどうしていけないのかが分からなかった。ケイミーのお客様はさまざまなサービスを受けられている方が多いですので、ご来店いただいたお客様へどのような水準のサービスやコミュニケーションをとるべきか、またどういうスタッフを採用するべきかを教えていただいたと感じたエピソードでした。そうするとやはりオンラインの作り方とかオンラインの説明の仕方、にも反映されますよね。
──ノットの遠藤さんも吉祥寺にお店を構えるという話をいただきました。ただ、やっぱり店っていうのは必要なのかっていうのがちょっと不思議で。不動産持ったら家賃がかかっちゃう。ネットで5000本売れるならお店は必要ないんじゃないのかと思うんですが。
遠藤 私はそもそも十数年も時計のビジネスをやっているんですが、いま、若い子、若いビジネスマン中心に「腕時計離れ」している。いろんな原因があるんですが、やっぱり売り方にも問題があると思っているんです。私にも大きな大学生の息子・娘がいるんですが、ネット社会で生きてきているんで、私の息子なんかお店に入り、店員さんに声かけられるとするするっと逃げて行っちゃうと。ちょっとこう接客が苦手だとか、そういう世代の人たちがどんどん増えてきているというのをある程度感じています。
腕時計って大きく2つに分かれます。1つは高級時計ですね、ラグジュアリー。資産価値であったり、おじいちゃんからお父さんへ、お父さんからお子さんへ、っていうような、そういう価値が腕時計には1つあると思うんです。けど、もう1つはやっぱり腕元のファッション、リストウェア。男性で言えば、ビジネスで身に着けることが許されているアクセサリー。パーソナリティを表現する、俗に言うこちら側の時計をファッションウォッチとかカジュアルウォッチと言われるわけです。
でも「ファッション」ウォッチと言われておきながら、服は店員さんに声かけなくても気軽に試着できるのに、ところがファッションウォッチは100%ガラスのケースの中に入っているわけです。必ず店員さんに声をかけないと試着もできない。こういうことをやっているんで、どんどん若い世代の人たちが腕時計から離れていっているのではないかと。ですので、私どものフラッグショップのテーマは完全オープンディスプレイ。ガラスは一切用意していません。誰でも手に取り、カスタマイズがその場でできる、楽しめると。たとえばカップルでいらっしゃって、「こっちのベルトがいいんじゃない?」「いやこっちのがいい」、そんな時計選びを楽しんでいただきたい。
それともう1つ、私ども吉祥寺に一号店をオープンします。これも理由がありまして、やはり腕時計の空洞化です。ご年配の、お金を持ってらっしゃる方が高い腕時計を買っているので業界は盛り上がっていますけど、若い方が腕時計をしなくなってしまうと、やがて市場が空洞化して、業界全体がおかしなことになってしまう。腕時計ってラグジュアリーなイメージがありますんで、銀座、青山あたりは少しハードルが上がっちゃうんじゃないかなと。吉祥寺は、休みの日にはファミリー、非常に年齢層も幅広い方がいらっしゃる。気軽に腕時計、リストファッションを楽しんでいただけるエリアなのかなと。
──森さんはスーツの仕立て屋さんなので「生地を見たい」って声をいただくこともあると思うんですけど、何か考えているところはありますか?
森 おっしゃられた通り、非常に要望はたくさんあります。「早く店舗を出してください」と言われるんですけど、我々の答えとしては「いつかはやるかもしれないけど、まずはオンラインでやりつくしてみよう」と。というのも私、コレクションもの(パリコレ)の仕事に携わっていたキャリアがありまして。
課題に感じたのが、顧客のニーズが今の時代非常に多様化していて、しかもトレンドが異常に早いこと。コレクションブランドがだんだん売れなくなってきているという現状がある。難しいのが半年後、一年後のトレンドを常に予測して買いつけなければいけないという現状がありまして。にも関わらずファッションサイクルはどんどん上がっているわけで、これは非常につかむのが難しくなってきていると。
そこで私たちがこだわっているのはオンライン販売。コストの面もそうですし、スピードもそう。トレンドのキャッチ能力や、顧客からのフィードバックが非常に取りやすい。オンラインでまずはやれることをやりつくしてみようっていうことで、我々このオンライン専業でやっております。というところがあるわけですけど、もちろん要望は非常に多いので、フラッグショップを建てるということは常に頭の中には置いている形です。
──ここから一人ずつ別の質問をぶつけていきたいなと。まず遠藤さん。腕時計ってなんだかんだ言っても工場が魂だと思うんです。工場は大手競合さんがすごい力を持っていると思うんです。
遠藤 はい。アパレルの工場さんが数十パーセント減少しているとか、ってお話しされていますけど、時計業界ってそれどころじゃなくてですね、日本の時計メーカーは3社しかいないんです。そうすると、工場が100社、200社あるとしても、クライアントが3社しかいない。非常に不思議な、独占的な業界で、そうなると、この3社のどこかに仕事をいただけないと、工場が生き残っていけない。「じゃあうちの傘下に入って、その代わりうち以外は作らないで」。これが数十年続いてきたわけですね。そんな中、独立して、大手の資本も受けずに細々と頑張ってこられた工場さんはごく数件だけ日本に残っているんですが、そのメーカーさんにいかに安定した仕事、安定した生産を保証してあげられるか。そこが日本の残された工場を活性化するために一番大事なことなんじゃないかと思っています。
──続いて森さん。伺いたいのがお金の話です。ラファブリックって基本的にオーダーなので、全く在庫を持たず、無借金でキャッシュをためていけるわけですよね。そのお金をどこにどう使っていくのかが気になっていて。
森 何もしないうちにキャッシュがどんどん入るような良いモデルをやっているわけじゃないんですけど(笑)。R&D(研究開発)には非常に力を入れていまして。サービスを始めたのが一年ちょっと前なんですが、二年ほどR&D自分でやってたりして。この一年間も改善、改善でやってきました。それから、いまはメイン商材がスーツとシャツなんですけども、来月にはカジュアル製品の展開も始めます(3月3日に開始)。そちらの研究開発もあって、先行投資が非常に発生している形なので、全然儲かっていません。
というのと、基本は薄利多売なんですよね、どうしても。インターネットの歴史を考えると、やっぱりずっと薄利多売のモデルが生き残ってきている。ということで、拡散できるリーチがあるぶん広い面を取っていかなければと考えています。オペレーションコストがかかるのも将来解決していかなきゃいけない課題なので、そこにも投資は必要かなと。
──オペレーションコストというと、何のオペレーションですか?
森 工場のネットワーク化もそうですし、1点1点オーダーに対応しているので、どうやって製造現場に落とし込んでいくのか。非常に複雑なことをしているので、組み合わせとしては10億通りくらいあるんですよね。それをたどりきらないといけないっていうところでかかってくるといった形になっております。
──受付窓口みたいのも必要で、そっちにお金をかけている?
森 そこは軌道に乗ってくればシステム化を進めたり、効率化するのでコストの削減できるところではあると思うとは考えておりますけども。非常にイノベーションに時間のかかる業界ではあると思ってますので、こつこつとやっていきたいと思っています。頑張ります。
012──ぜひ頑張ってください。最後、毛見さんに伺っていきたいのはブランド戦略についてです。日本製が強みだとは思うんですが、たとえば日本企業が中国で同じことをしてきたら人件費で負けちゃうんじゃないか。逆にこうフランスが同じようなモデルを作ってきたらブランド力で日本が勝てるかどうかは怪しいな、というところがあると思うんですが、ブランド力の根源ってどう考えているんですか?
毛見 中国とか、その他の国もそうなんですけど、日本との技術力は差がまだあるなと思う所があります。実際、我々も当初中国にお願いしていたところがあって。我々の製品は縦と横に素材が伸びて、糸も伸びるんですね。自社製品を一度ほどいたことがあるんですけど、1着ほどくのに5時間かかるんです。めちゃくちゃ伸びるもの同士、伸縮性を抑えて、100本くらいのギャザーやドレープを作りながらそのように縫っていくっていう技術は匠の技に近いものがありまして、対応している工場が非常に少ないんです。
パジャマとか体操着とか、いわゆるスウェット製品を縫っている工場に依頼すると大半断られるって現状がありまして、やっぱりケイミーのワンピースはうちではスイマセン、みたいなことが10件中9件くらいあって。そういった中で技術を提供してくださるところに、オペレーターの方を増やしている状況です。日本以外でも縫えるかもしれないんですけど、日本で腕のいいところを見つけ、一緒に育てて、従業員さんを増やしていく方が確実性は高いというところですね。
ヨーロッパに対して。これは先ほどお話に出たようにコレクションブランドすら、やはり西洋の東洋・日本へのリスペクトみたいなところがあると感じます。東洋の概念とかデザインみたいなものはある程度個性化できるところがあります。なので、我々も着物の柄をジャージードレスに置き換えるというラインを作っていて、そういったところから日本オリジナルであるとうたっています。もちろん海外の方にもお越しいただくんですが、何より日本の方に着物実用で気軽に着れるといったところで、海外にそれを着てレセプションとかパーティーに出ていただいています。そうした意味では、すごく個性的なジャージードレスが出ているんじゃないか、ということがあります。
ただ、ブランド戦略としては最終的に「我々はモノでは戦わない」というものを掲げています。それは私が経営コンサルティングをしたいたとき、金融やITの商品の営業部門とかの問題解決をさせていただく場合、営業のモチベーションの低下の背景にはたいていモノの差別化ができず価格競争の話にだけ陥っている場合が多かったんです。そのときから、原価も度外視の価格競争に陥る仕事ではなく、モノの背景や精神性の部分で付加価値を出せる事業をしたいと思ったのです。
我々が本当に成し遂げたいのは、働く女性が大輪の笑顔で自分の夢を実現するためにその創造性を高めたり、ボトルネックをはぶいたりすることなのですが、お洋服はその第一弾という位置づけです。たとえば全く同じものが出てきたとしても、そのブランドの背景にある勇気とか元気とか挑戦とか、そういう共同体として選ばれる存在になりたいと思っています。