6月にドコモの代表取締役社長に就任した吉澤和弘氏が、インタビューに応じた。吉澤氏は、前社長である加藤薫氏とともに、ショルダーホンの商用化に携わった人物。その後も数々の部署で、端末からネットワーク、サービスに加え、営業や経営企画まで幅広い分野で経験を積み、現在に至る。
その吉澤氏は、ドコモをどのようにかじ取りしていくのか。スマホやネットワーク、サービスなど、さまざまな分野における戦略や方針をうかがった。
スマホの次やウェアラブルなどは模索中
──いま現在の主力であるスマホは、成熟を迎えつつあるとも言われています。まず、ここをどうしていくのかをお聞かせください。
吉澤氏:スマートフォンも成熟して、これからどう発展するのかが見えないところはあります。成熟しきったと言う方もいます。もちろん、私も形そのものが大きく変わるとは思っていませんが、進化も当然あります。
CPUの処理能力はまだまだ上がりますし、メモリーも増えていきます。ディスプレーも有機ELが(もっと)入ったり、フレキシブルディスプレーのようなものも出てくるでしょう。今後を考えると、もっと違った形の進化はあると思っています。ペンのようなデバイスで巻物のようにディスプレーを引き出したり、机にキーが出てくるようなこともあるでしょう。
また、ウェアラブルやスマートウォッチ、スマートグラスも出ていますが、それらはまだ中途半端なところがあります。AI(人工知能)やパーソナルエージェントを考えたとき、スマホのような形よりも、(ウェアラブルの方が)常に一体となっているイメージはあります。スマホ+ウェアラブルのようなところで、発展する余地はまだまだあります。
ただ、ウェアラブルのいまの問題点は消費電力にあります。実際使ってみるとわかりますが、「Apple Watch」もいいのですが、18時間ほどで使えなくなりますし、「Gear S2」も1日半ぐらいが限界です。それがもう少し持つようになり、使い勝手がよくなることが必要です。ネットワークモデムまでは難しいかもしれませんが、Bluetoothでつながり、パーソナルエージェントになるようなもの。こうしたものは、2020年までには出していきたいですね。
──ドコモとしては、そこにモデムが入っていた方がうれしいですよね(笑)。
吉澤氏:それは確かにそのとおりで、トライはしています。ただ、やはりバッテリーなんですよね。LTEが入り、あとはもうちょっとディスプレーが見やすければといった気持ちはあります。
約60%はスマホへ移行。VoLTE対応Androidケータイや
低価格なローエンドスマホ導入も示唆
──ある程度スマホは行き渡りつつありますが、一方で諸外国に比べると、普及率は高くありません。ここには、どのような手を打っていくのでしょうか。
吉澤氏:スマホは、ちょうど60%を超えたところですね。数で言えば、1000万台以上がフィーチャーフォンです。いまの状況を見ていると、フィーチャーフォンで十分という方もたくさんいる。形や操作の仕方、バッテリーの持ちや、安さなど、理由はさまざまです。
その部分を踏襲するという意味で、次の段階では、AndroidフィーチャーフォンのLTE版を開発しています。VoLTEに対応させ、音声品質もよいもの。そういった端末で3Gからの移行を促します。スマホに移行されない方は、それらでいければと思います。あとは料金も考えなければいけないですね。
──料金という意味では、安いスマホのようなもの考えられるのではないでしょうか。
吉澤氏:フラグシップ、ミドルと出してきたので、あとはローエンドも出したい。いま検討しているところですが、売値(実質価格)はどうかを別にして、フラグシップの半分ぐらいのものを考えています。
ただ、(コストの関係で)日本メーカーができるかどうかは、きわどいですね。安いものがいい人に、選択していただければと思います。
SIMフリーも含め、安い端末が出てきていますが、そういったものと同じ系統になるかどうは別として、いま、ベンダー(メーカー)と議論しているところです
MVNOの存在感が増しているが
ドコモでサブブランドを提供する考えはなし
──そのSIMフリースマホで使うMVNOの勢いが増していますが、ここには、どう対抗もしくは協力していくのでしょうか。
吉澤氏:MVNOにもドコモの回線を使っているところがある一方で、MVNOに近づきつつあるワイモバイルや、(auのサブブランドになりつつある)UQ mobileをどう捉えるのか。とくにワイモバイルは、1980円のキャンペーンもあって、価格もMVNOと同程度になりつつあります。
経験もあるので、どの程度MVNOに(ユーザーが)行ったときに経営に影響の出るのかは、大体はわかっています。ただ、いまのところ、ドコモとしてああいった料金(1980円)に追随したものを出すつもりはありませんし、ドコモのサブブランドをつくる考えもありません。
──禁止行為規制(電気通信事業法などで規定されている、シェアの高いキャリアに対する規制。ケータイの分野ではドコモが対象で、5月に緩和された)が緩和され、MVNOと組むことも可能になりました。それを踏まえて、ドコモはやはり自社でというより、どこかのMVNOと一緒にやっていく路線を取る可能性もありえますか。
吉澤氏:協業という意味では、MVNOとは色々なことができると考えています。メインになるのは、IoT(モノのインターネット)の分野ですね。たとえば、全国的に監視システムを持つベンダーさんなどで、必ずネックになるのが回線です。そういうところがMVNOになり、私たちと組んでやるという動きは出てきます。
あとは、我々のサービスを使っていただく動きもあります。いまでもdマーケットの一部を販売していただいていますが、これは我々にとっても収入になりますし、MVNOのお客様にとってもメリットがあります。
──UQ mobileの営業面でauが協力するという動きもありましたが、そこまで踏み込むことはありますか。いまのMVNOを見ると、販路に限界があるところも多いような印象は受けます。
吉澤氏:協業するところへのサポートはできますが、ショップの窓口で端末を売るとなると、A社にやれば、当然B社もという話になってきます。さすがに、そこまでは、ちょっと難しいかもしれません。