フラットで重厚な乗り心地ながら
素早い加速は刺激的
前置きが長くなってしまったが、いよいよホンダの燃料電池車のシートに収まり、公道に繰り出してみよう。システムの起動はインパネにあるボタンを押すというもので、基本的には最近のエンジン車やハイブリッドカーと共通。シフト操作は、ホンダ独自のボタンやレバーを組み合わせたデザインによるのは目新しいが、これも同社のハイブリッドカーなどに採用済みで、ホンダユーザーであれば既知の操作系といえるもの。もちろん、ステアリングは円形であるし、アクセルペダルとブレーキペダルが足元に用意されているのも通常のクルマとなんらかわりはない。
ノイズはむしろ乗り味にプラスか!?
しかしながらアクセルペダルを踏んだ瞬間から、燃料電池車としての違いは感じられる。モーターの出力をうまく制御したスムースな走り出しはEV(電気自動車)とも似たものだが、そこから加速を続けると、どこか刺激的な高周波ノイズがわずかに耳に届く。内燃機関にも通じる、パワー感にリニアなそのノイズの発生源は、燃料電池に空気を送り込むための電動ターボ由来の音がメイン。メーター内の表示でも発電状況は把握できるが、こうして音によって動いていることを感じられるのだ。燃料電池車といっても、やはり自動車としての味付けの部分は残っていることが再確認できた。
また、クラリティ フューエルセルにはノーマルモードのほかにスポーツモードが設定されている。これはアクセルペダルを踏み込んだ際に、加速のダイレクト感を増すセッティングとなっているだけでなく、アクセルオフでの減速感も強めているのが電動車両らしいところ。駆動モーターは減速時には回生ブレーキとして減速エネルギーを電気に変換するが、スポーツモードでは回生ブレーキを強めにかける味付けとなっている。これにより、アクセルのオン・オフだけで加減速がコントロールでき、ちょっとした曲がり道であればブレーキを使わずに走れてしまうというのは、新鮮な感覚だった。
だからといって、スポーティ一辺倒の乗り味というわけではない。車検証での車両重量は1870kgと、アコードクラス(Dセグメント)のボディーサイズとしては重量級のボディーとなっていることで、非常に落ち着いた乗り心地となっている。タイヤが路面を捉えていながら、ボディーは揺さぶられることがなく、もっと上級な車格を思わせる。誤解を恐れずにいえば、「ホンダ車史上最高の乗り心地」が感じられた。もっとも、リース販売の基準となる車両参考価格は766万円と、Dセグメントとしては十分に高価なので、こうした満足度の高い乗り味を持っていることは商品性としては当然なのかもしれないが……。
こうした乗り心地のよさは、サスペンションがしっかりと仕事をしているからといえるが、そのためには強固なボディーは必須条件。その点、クラリティ フューエルセルは燃料電池や高圧水素タンクを守るためにハイテン鋼を多用した、強いボディとなっていることがドライバビリティーの面でも効いているのは間違いない。
今回、あえて市街地での走行を中心としたため、高速走行を試すことはできなかったが、前後のタイヤで生まれる乱流をエアカーテンによって整える空力ボディーとなっていることもクラリティの特徴。空力優先というと視界が犠牲になることもあるが、全長4915mm、全幅1875mmと大柄なボディーながら、市街地を走っていても車両感覚がつかみやすく、このカテゴリーのセダンとしても高いレベルの取り回し性を持っていることも報告しておきたい。
ホンダが車輌型式を取得した燃料電池車としては3代目となる「クラリティ フューエルセル」。リース販売専用モデルということで、まだまだセミ・プロダクション的な先入観もあったが、燃料電池車のアドバンテージとらしさを活かした、Dセグメントのセダンとして驚くほど高いレベルでまとめられた一台だった。