人生の破滅を防ぐ6000円
もちろんキングジムのみなさんは、散々ご検討された末、まずは基本機能に絞って商品化されたのだとは思いますが、いくつか思いつくところを申し上げます。
まず、本体が大きいので、Bluetoothでも良かったのではないか。快眠という前提ならばノイズキャンセルだって入れられる。液晶部分は逆にクリップで胸ポケットに付けて、ディスプレーに「高尾駅で降ろしてくださいお願い♥」などと明滅させても良い。
そして案外とタイマー設定が面倒です。ダイヤも乱れがちな昨今、設定した時刻に電車が着くとも限らない。そもそもユーザーは酔っぱらいです。だからスマートフォン側のGPSソフトと連動させて、目的の駅の手前で鳴るようにするとか。
いずれにしても、ネタに窮している感のあるオーディオメーカーと違って、さすが目の付けどころが鋭い。イヤフォンとしては案外高価な6000円ですが、それをはるかに超える価値はあるように感じました。
というのも、私の知り合いには酔っぱらいが多いせいか、金曜深夜には「駅員さんから終点ですと起こされた」といった書き込みをされる方が多い。終点からタクシーで何駅か戻るとなると、深夜でもあり料金も馬鹿にならないはずです。
私が普段使う京王線なら、高尾山口(東京都八王子市)や橋本(神奈川県相模原市)で止まってくれますが、中央線ご利用のみなさんは悲惨です。気がついたら大月(山梨県大月市)だったということも年に数回は聞く話で、こうなるとタクシーで戻ると万単位の金額に。
さらに言うなら、終点で気がつけば、むしろいい方です。聞くところによると、目が覚めたら知らない場所で素っ裸で眠っていて、そこまでのプロセスをさかのぼるのすら差し障りがあるような事案なども発生しているようで、そこにはこんなレビューではとても書けないような、恐ろしい顛末が待っているに違いありません。
お酒は程々に。そして人生を破滅へ導く前に、ぜひ目を覚まし、自らの意志で家にたどり着いてください。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ