本特集の第1回で紹介したとおり、最新の無線LANルーター、特にIEEE 802.11acに対応した製品を導入することで、宅内における無線LANの通信速度向上が見込める。
本特集で扱っているようなミドルクラス製品なら、11acで866Mbpsの通信が可能となるハズ。しかし、866Mbpsだ! ニアギガだ! と浮き足立つことなかれ。
というようなことに言及すると「はいはいどうせ“(理論値)”でしょ」と思うことだろう。この記事においても「(理論値)」は何度も出てくるキーワードだ。
実際の通信速度はさまざまな条件で理論値からの引き算となる
言うまでもないだろうが、無線LANルーターにおいての最高速度はあくまで理論的なものであり、本来であれば「実測値」こそが無線LANルーターの実力だ。その実測値をスペックの1つとして表記している製品も少なくない。
しかしその実測値すら、いろいろと整えられた条件で計測された結果であるのも確かなこと。やはりユーザーとしては、自分が使う環境でどれほどのポテンシャルを発揮するのか、そこを見極めるのが重要となる。
そして、さらに誤解しやすいのが「11ac対応スマホ」についてだ。今回紹介しているような11acルーターを導入し、今持っているスマホの無線LAN機能が11ac対応だからといって、必ずしも思ったような速度が出るとは限らない。
11acの最高通信速度を決めるのは、内蔵される送受信用アンテナの数だ。これは「ストリーム」と呼ばれることもある。理論値866Mbpsの最高速度を誇る無線LANルーターであれば、2ストリームのアンテナを内蔵していることになる。
最大通信速度(理論値) | アンテナ数(送信×受信) | ストリーム数 |
---|---|---|
1300Mbps | 3×3 | 3ストリーム |
866.7Mbps | 2×2 | 2ストリーム |
433.3Mbps | 1×1 | 1ストリーム |
そして子機側のデバイスも、同じストリーム数のアンテナを内蔵していなければ、たとえ理論値だとしてもその速度をそもそも出せない。
つまり理論値866Mbpsを叩き出すには、子機にも2ストリームのアンテナが内蔵されていなければならないのだ。
一方で、現在販売されているスマホは、最新機種こそ2ストリーム対応のアンテナが内蔵されているが、2015年以前の古い機種だと1ストリームのアンテナがほとんど。つまり、たとえ理論値でも866Mbpsに対応した無線LANルーターを設置したときには433Mbpsを超える通信速度は出せない、ということになる。
また、帯域幅についても同様のことが言える。11acの仕様では帯域幅は80MHzと160MHzに対応しており、ストリーム数が同じでも帯域幅が160MHzであれば2倍の通信速度となる。
しかし、現在のスマホは、細かい仕様は公開されていないが、対応している帯域幅の上限は80MHzが多いと思われる。たとえ無線LANルーター側に160MHzの通信モードが備えられていたとしても、2倍の通信速度は出せない。
なお、これはスマホだけではなくPCでも同じことだ。無線LANルーターの無線機能をフルに使いたいのであれば、そのストリーム数にキッチリ対応したUSB接続の子機を接続する必要がある。