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日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第17回

ユーザー企業とSIerの立場で金融系システムに注力

ソニー銀行のAWS導入を進めた大久保さん、FinTechに切り込む

2016年01月15日 11時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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金融機関で初となるソニー銀行のAWS導入をリード

 同時に手がけたのは社長からのオーダーでもあったサーバーの削減になる。銀行のシステムは、通常時よりもかなり余裕を持ったキャパシティプランニングが施されており、コスト面で無駄があった。「金融機関はたとえばリーマンショックやドイツの空売りなど、3年に1回来るようなバーストトラフィックのCPU利用率をターゲットにしてキャパシティを決めています。でも、通常はほんの数%程度なので、リソースがもったいない。データベースのライセンスもCPU課金なので、始めに買ってしまうと、ずっと払い続ける必要がありました」と大久保さんは指摘する。

 これを実現するべく、導入を進めたのがAWSになる。大久保さんはクラウドの出会いについて、「従来のように最大のキャパシティでハードウェアを購入して仮想化環境作ってもリソースの確保が必要だし、なかなかスケールメリットが出せない。その点、初期費用を抑え、ランニングコストだけで使えるというのは、銀行にとっても大きなインパクトがあった。しかもAWSはAPIで操作できるところが魅力的だった。個人的に好きな機能はタグ。オンプレにない概念だと思う」と語る。

「AWSはさらにAPIで操作できるところが魅力的だった」大久保さん)

 2011年の東京リージョンの開設で、金融機関でのAWS導入の機運が高まった。ソニー銀行でもAWSの導入を図り、基幹システムと切り離されたセミコアのシステムを更改サイクルに基づき粛々とクラウドに載せ替えているという。この結果、サーバーの数を削減し、マルチベンダー化によりコスト削減や開発のスピード化も実現できた。「当初メインベンダーやその下請けのSIerに理解してもらうのが大変でした。でも、ステークホルダーがノウハウを持ち寄って事前検討を進めていくうちに、金融機関で初めてというプロジェクトをみんなでやってみようという機運ができました」と大久保さんは振り返る。

JAWS-UGのつながりを元にFinTechにチャレンジ

 AWSのユーザーグループとしては、エンタープライズ向けのE-JAWSに顔を出しているという。「金融システムと他のエンタープライズシステムの違いはおもに運用設計で、アクセスコントロールや監査機能、災害対策などが挙げられます。でも、これらは監督官庁の違いによるものなので、セキュリティ面から見ると両者のアーキテクチャとしてはそれほど大きくは変わらない。ですから、他のエンタープライズユーザーの事例に関して突っ込んだ情報交換ができるのは、とても勉強になります。特に失敗事例はありがたいです(笑)」と大久保さんは語る。

 昨年は金融機関向けの「Fin-JAWS」の発足もあり、話題となっているFinTechに関してもJAWS-UGのコネを活かして、PoC(Proof of Concept)を進めて来たという。「AWSで新しいサービスを銀行だったらこう使えると話すと、JAWS-UGのSIerの人たちはすぐに検証して、提案で持ってきてくれます。SIerの方もR&Dのネタが必要であり、私もビジネスのアイデア出しをします。非常にいいサイクルです」と大久保さんは語る。

 海外のFinTechに関しては、ネオバンクと呼ばれる個人向け金融サービスのパイオニアであるMovenbankやブラジルの新興勢力であるNuBankなどがすでにAWSを活用しており、クラウドネイティブの波が迫っている。日本でも、2015年は金融庁が金融機関での導入を推進したことで大きなうねりになり、大手の金融機関も積極的にFinTechの活用を進めるようになっている。

 FinTechというとAPIやブロックチェーンのテクニカルな議論に終始しがちだが、本質的にはユーザーの金融行動にあわせた利便性と金融以外の分野との連携にあるという。大久保さんはFinTechの未来と課題について「インターネットやモバイル、プラットフォームの進化によって、金融機関がいままで持っていなかった“新しい信用情報”が、どんどん生産されるようになりました。今後はこうしたデータを活用して、個人の金融行動にフィットした金融サービスを提供していくことが求められています。こうしたFinTechの流れについて行けない金融業界に危機感を抱いています」と語る。

「今の決済がブロックチェーンに置き換わることで、⾦融以外の産業においても利⽤者が時間と費⽤のメリットを享受できるようになる世界がやってくる」(⼤久保さん)

 こうした時代を見据え、大久保さんは2016年2月から、FinTechビジネスの立ち上げや開発、さらにはセンサーやIoT、AIなどを含めた中長期事業戦略の立案、他のスタートアップやベンダーとのアライアンスなどを進めるという。「東京オリンピックが目前に迫っており、追い風が吹いて来たと感じています。テクノロジーでライフスタイルをアップデートできるよう、AWSユーザーの端くれ者として、イノベーションに余生を捧げたいと思います」(大久保さん)。FinTechに舞台を移した大久保さんの戦いはもう始まっている。

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