同時多発テロ直後で厳戒体制下のパリの展示会を訪問する
筆者はここ数年、NFC(Near Field Communication)や決済関連の技術に的を絞って取材活動を続けている。これら分野について世界中のメジャーな展示会や会議にはひと通り訪れるようにしているが、毎年11月前後の時期にフランスのパリで開催されている「Cartes」という、ICカードとセキュリティを主軸とした展示会もその1つだ。近年、決済や認証まわりで最新のセキュリティ技術に注目が集まっていることもあり、Cartesは米国で「Cartes America」、アジア(香港)で「Cartes Asia」という分家にあたる展示会も開催している。だが、あくまで中心となるのは本家であるパリの「Cartes」だ。そのため、ここ最近は毎年11月にパリ詣でをするのが年中行事になっている。
そして今年2015年11月もフランスはパリ渡航への準備を整え、渡米先のシカゴから帰国直後の11月14日夕方(日本時間)に12時間ぶりにスマートフォンを開くと、SNSではパリでの同時多発テロ事件のことが大きな話題となっており、メールボックスもそれ関連の情報で溢れかえっていた。タイミング的には欧州時間で事件発生の13日夜の混乱がいったん収束し、夜が明けた直後くらいだ。
情報も速報ベースのものから、より詳報が出て事件全体の概要が判明しつつある頃合いでもある。16日のパリ移動を控えた直前のタイミングであり、情報を集めて実際に渡航すべきか判断する必要があった。
まず分かったのは、SD Associationのようにすぐに出展キャンセルを表明する団体があったこと。そしてCartesに行くといっていた(報道関係の)同業者が、スポンサー企業の出展中止と渡航キャンセルにより、合わせてパリ行きを中止したことだ。
この時点でさらに複数社の出展中止が見込まれたうえ、現地行きを中止する参加者らもさらに増えると考えた。しかし一方で、現地に行けなかった人たちからの「現地事情を把握したい」というニーズがあるとも感じ、筆者自身は逆に渡航すべきだと考えるようになった。ちょうど、事件に前後する形で日本マイクロソフトから複数の関係者がパリに滞在しており、現地が思ったほどには混乱していなかった旨も聞いていた。そこで「細心の注意を払って行動する」ことを肝に銘じ、当初の予定のままフランスへと渡ることにした。
結果からいえば、テロ対策で厳格化を心配していた入国審査も「いつものフランス」という感じでそれほど厳しい印象はなく、ホテルへもスムーズに移動できた。今回は、初めてロシアの航空会社アエロフロートを使ってモスクワ経由でパリに移動した。
エジプトでのロシア旅客機墜落事件があったばかりで、しかも東京から欧州圏への直行便ではなくモスクワ経由を選択したことに不安はあったものの、モスクワ~パリ間の飛行機は完全に満席で、パリ旅行に向かう人々に溢れテロ直後とは思えない雰囲気だった。実際、移動直前の成田空港では、おそらくパリ直行便に乗るであろう日本人の団体客がパリでの旅行プランを楽しそうに話しており、事件から2日ですでにテロの物々しさを感じさせなかった。