「編集部」で働いたことがある人って、どれぐらいいるんでしょうか。
前回、ボンダイブルーのiMacが家に来た思い出を記事にしたところ(関連記事)、ありがたいことになかなか好評をいただきました。それを受けて上司に「他になんか思い出はないの? 面白い話じゃないとダメね」とふんわりしているわりにハードな無茶ぶりをされたので、今回は、アスキーに初めて来た日のことを振り返りたいと思います。
ご存知かもしれませんが、アスキーにはさまざまな伝説があります。袋のインスタント麺を開けて麺をかじりスープ粉末を口の中に入れお湯を飲んで“食べる”人がいたとか、泊まり込みで夜も眠らず仕事しているという編集者の昼寝の合計時間を計ったら余裕で8時間を超えていたとか、建物の清掃日だということを忘れ編集部で寝ていたら薬剤がまかれ、真っ白な部屋で目を覚まし「俺は死んで天国に来てしまったのか」と驚いたとか……。どれも本当なのかな。たぶん本当だろうな。
そんなレジェンドなエピソードに敵うはずもないので、僕が初めて編集部を訪れたときのリアルな体験談を紹介しましょう。
編集部を初めて訪れた日、自分はビビった
2012年ごろから、僕は、元々アスキーで働いていた方と知り合い、仕事を手伝うようになりました。その人はアスキーからの仕事も請け負っていたので、その流れで自分も編集部に顔をちょくちょく出すようになります。そこで顔を覚えられ、最終的に「ASCII.jp編集部で働かないか?」と声をかけていただいたというわけです。
当時、自分は大学院生でしたが、「学問の世界でやっていけるのだろうか?」と自問自答する日々。あと金欠でさえない日々。編集部に入ればお金も稼げるし、仕事になじめればそのまま居着くこともできるだろう、これはなかなかいい話かも……と浅はかに考えていました。
とはいえ、就活もろくにしていなかったダメ学生だったので、面接の経験などほとんどなく、何の準備をしていいかサッパリ。「スーツで行ったほうがいいですか?」とメールしたところ、「こちらが緊張するからやめてくれ」と言われてしまうなど、かみ合わないやり取りが続きました。面接の日、一応ジャケパンスタイルで行ってみると、わりとラフな格好の編集部員が――ご本人の名誉のために名前を伏せますが、この記事を書いた人でした――「小林です」と現れたわけです。
この際なので告白してしまいますが、アスキーで働きたいと言っていたにも関わらず、当時の僕はITやデジタルに詳しいと自信を持って言えるほどの知識がありませんでした。まあ、今でも超バリバリに詳しいかと聞かれれば、やや疑問が残りますが。大学ではフランクフルト学派というものを研究していたので、「弁証法という概念について、アドルノとベンヤミンの考え方にどのような違いがあると考えているか?」と問われれば多少は返す自信があったのですが、IT系ニュースサイトの面接にはあまりにそぐわない話題、聞かれるはずもありません。
ボロが出ないように、何を聞かれても「大丈夫……じゃないでしょうか」「なんとかなる……んじゃないでしょうか」となどと答える自分は、どうにもアピールする気のない人間に見えたでしょう。「コジマくんは、パソコンは何を使ってるの?」という質問に、MacBook Airですとバカ正直に言ったらナメられそうだな、意識の高い学生と思われたらイヤだなあ……と意味不明な心配をし、1.5秒ほど返事を考えた挙句「エアーの11(インチ)です」と答え、「え?」と聞き返されたのもよい思い出。
しどろもどろな面接をパスし、編集部に入ったときの瞬間は、よく覚えています。「うわーっ、編集部だ!」。テレビやマンガなどで見覚えのある、イメージのままの世界がそこにありました。モノと書類とで雑然とした机、忙しそうにかつ気だるげに働く人々、あちこちに積まれたパソコンや自作パーツやガジェットの山! 最初こそ感動していたものの、すぐに、「さすがアスキーだ、うーん、こんなところで自分はやっていけるんだろうか」という不安が押し寄せてきました。
不安といえば、フィクションによく出てくる、鬼のように怖い編集長っているじゃないですか。部下から渡されたゲラに目を通すやいなや、ぐしゃっと握りつぶして、「なんだこのクソ原稿は!」と怒鳴るような、アレ。編集部って、ああいう人ばかりの業界だと考えていたんですね。いや、いるところにはいるんでしょうけど、ASCII.jpにはいなかったです。……うん、今もいないです。本当だよ。
でも、編集部という空間の未知なる雰囲気と、自分の想像する「こわ〜い出版業界」の妄想がないまぜになって、そのときの自分はビビって、頭が真っ白になってしまって。記事の登録方法などを一通り説明してもらっている間もパニックは止まらず、わからないことがあったらなんでも聞いてね、という先輩に、震える声で最初に聞いたのが次の質問でした。
「あのう、文章って……どうやって書くんですか?」
相手には、「またとんでもないヤツが入ってきたな」って顔をされましたね。
今では、アスキーの(すみっこの方にいる)一員です
そんなこんなで2年半。まだまだ若輩者ですが、取材に原稿に、ジャンクフードにその他もろもろにと書き続けていたら、すっかりアラサーになってしまいました。初心忘れるべからずといいますが、ひさびさに編集部に初めて来た日のことを思い出して、ますますがんばろうと思った次第です。
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