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意識、知性、人工知能……クラウド技術とロボット技術が結びついて起こる未来:仮想報道

2015年12月03日 09時00分更新

文● 歌田明弘 編集●北島幹雄/大江戸スタートアップ

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画像は脳の神経回路について画像を共有する「Open Connectome Project」。連載では意識の同一性やクローン作成、脳科学のビッグプロジェクトなどを取り上げている。

週刊アスキー電子版にて連載中の『仮想報道』では、電子版創刊号から意識のアップロード、脳のシミュレーション、人工知能の発展といった一連の流れを追いかけています。今回は、その嚆矢(こうし)となった週刊アスキー1030号の記事をお届けします! ※一部内容は連載当時のままです。

Vol.876  クラウド技術とロボット技術が結びついて起こること

(週刊アスキー2015/6/9号 No.1030より)

死んだお母さんが蘇り……

 2015年初め、NHKスペシャルが30年後の世界を描いた「ネクストワールド」というシリーズをやっていた。

 最後の回で取りあげられた火星への移住や小惑星探査などはこの連載でかなり詳しく取りあげたし、バーチャル・リアリティの回も前半は珍しい話ではなかった。

 驚くことは少なかったが、「デジタル・クローン」の話は初めて聞いた。死んだ夫の情報を保存しておいて、それを使って夫の心をデジタル・クローンとして甦らせるのだという。

 「ビーナ48」と名づけた人間そっくりの顔のロボットが、保存したデータからその人の個性にあった答えを探し出し会話する。会話を繰り返してみずからも学習していき、ビーナの人格に近づいていくのだという。

 番組では、ロボットにとどまらず、3Dホログラムを使って、死んだお母さんが現れた……なんてドラマ仕立ての話もやっていた。娘は、「ほんとのお母さんではないお母さん」の出現に動揺し、よかれと思って登場させた父親に「消してくれ」と頼む。しかし、ホログラムのお母さんはすでに人格を獲得していて、心情をせつせつと訴える……このいささか不気味な話はおもしろかった。次回にかけて、この話について書こう。(週刊アスキー電子版1031~1033号掲載)

「クラウド・ロボティクス」はなぜ必要か

電子工学の学会IEEEが発行している雑誌「スペクトラム」に掲載された記事『クロウド・ロボティクス――クラウドに接続するとロボットは賢くなる』。バランスをとるといったようなリアルタイムの反応は、やりとりに時間が必要なクラウドでは対応できない。その点が難点、と指摘されている。

 「この話を書こう」と思ったのは、じつは数週間前のことなのだが、驚くことに、その後グーグルが似たような特許をとったことが明らかになった。「故人を”再生”できる…『性格』ダウンロード技術、グーグルが特許」という産経新聞の記事がヤフーにも載っている。

  この記事では、人工知能が性格を獲得し、2045年までには人間を超えるロボットが生まれるという「2045年問題」を未来学者のレイ・カーツワイルが提起し、ビル・ゲイツやイーロン・マスクもこの意見に賛同していると書かれている。

 「ロボットの性格発展のための方法とシステム」と題されたグーグルの特許文書にも、「利用者本人や死んだ恋人、有名人のように行動するなど、実在の人間の性格と同じになるようにプログラミングできるだろう」といったことが書かれている。しかし、全体のトーンはじつはかなり地味だ。性格そのものを再生できるわけではなくて、性格にもとづく行動パターンなどの情報を蓄積しておいて、それをもとにロボットに行動させるといったことが書かれている。

 例としては、たとえば、仕事がたくさんたまっているときにどう行動したかについての過去のデータを使って、その人のふるまいを再現する。雨が降りそうならば、ロボットが「ご主人様」に傘を差し出すのはもちろんのこと、雨降りのときに不機嫌になるというデータがあれば、元気を出すよう明るく声をかける。

 すでにあるデータを利用するだけではない。ピーナッツ・アレルギーがあるのにそれを知らず、ピーナッツ入りの料理をご主人様に出して怒られたときには情報として蓄積し、同じあやまちを繰り返さないようにする。そうやって学習し、「デジタル執事」は賢くなっていく。

 朝いつもの時間に起きてこなければ、スマートフォンのアラームが切れているのかもしれない。そう判断してコーヒーを持っていく。 役には立つだろうが、このようにそれほど派手なことが書かれているわけではない。逆に言えば、地味なだけに現実味のあることが書かれている。

 この特許の眼目は、ロボット自身のデータだけではなくて、ほかのロボットやモバイル端末などと情報を共有し、さらにクラウドにある情報も利用して適切な行動をするところにある。

 たしかに1台のロボットが持つ情報は限られている。スケジュールはスマートフォンにあるかもしれない。オフィスの情報はオフィスのパソコンがもっとも持っている。食料の情報を持っているのは冷蔵庫だろう。

 どこにも必要な情報がなければ、クラウドで似たケースを探す。

 こういうロボット技術は「クラウド・ロボティクス」と呼ばれている。グーグルは、カーネギーメロン大学のロボット技術の専門家ジェームズ・クフナーを雇ってこうした研究を進めていたという。

「性格」を持ったロボットについてのグーグルの特許申請文書「ロボットの性格発展のための方法とシステム」。ロボットどうしが「意見(情報)」が異なったときには優先順位を決めておいて調整するのだそうだ。

インストールして「空飛ぶロボット」に

 4年も前の電子工学の学会誌にクフナーの研究についての記事が載っている。

 学会の雑誌にしてはずいぶんエンタメ化していて、冒頭には映画「マトリックス」で、主人公のネオがハッカーの女性トリニティに「飛べるか」と尋ね、トリニティは「まだ飛べない」と答えた。しかし、「パイロット・プログラム」を脳にアップロードして飛べるようになったというエピソードが書かれている。

 これは「クラウド・ロボティクス」の典型例で、まだない能力や情報もクラウドから持ってきてロボットが進化していく。

 ロボット単体ですべてのことに対処しようとすれば、CPUに負荷がかかる。電気も食うのでバッテリーも大きくなる。しかし、クラウドの能力や情報を使うことができるのであれば、ロボットは軽量化できるし、充電しなくても長時間働けるようになる。クフナーはそうした発想で、クラウド・ロボティクスの研究をしているそうだ。こうした技術は、グーグルが力を注いでいるクルマの自動運転技術にも役立つ。

 空は飛ばないにしても、われわれも先の「マトリックス」の場面のようなことはじつは日常的にやっている。アプリをダウンロードしてスマホの新たな能力を獲得し、使い勝手を高めている。ロボットについてもそれと同じことができるはず、というわけだ。たしかに、「飛ぶためのプログラム」ができれば、ロボットが空を飛ぶことだってありえなくはない。

Afterword
グーグルの研究の目的は、上に書いたようにロボットのふるまいを向上させることにある。「性格のダウンロード」もそのためのものだ。しかし、不死の技術の一環として個人情報を保存し、甦らせようとしている団体がある。紙版は本号が最後だが、次回電子版(週刊アスキー1031号)でそれについて。

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