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JAWS-UG九州勉強会レポート 第1回

クラウドで戦う地方IT企業の本音とは?

JAWS FESTA Kyusyu 2015で聞いた九州のクラウド事情

2015年11月04日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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11月3日、AWSのユーザーグループであるJAWS-UG主催によるイベント「JAWS FESTA Kyusyu 2015」が麻生情報ビジネス専門学校 福岡校で開催された。九州のIT企業の講演を中心にイベントの模様をレポートする。

クラウドは受託開発にあうのか? Fusicの例

 JAWS FESTAはJAWS-UGによって年に1度行なわれているユーザーコミュニティイベントで、東京で行なわれるJAWS DAYSの地方版に当たる。一昨年は大阪、去年は仙台で行なわれ、地方色豊かなコンテンツで地元のユーザーを巻き込んでいるが、今回は「九州IT産業革命」と題された今回は福岡の麻生情報ビジネス専門学校を会場とし、6つのトラックに渡ってさまざまな講演やハンズオンが行なわれた。ここでは、おもに九州事例トラックのセッションをレポートする。

会場となった麻生情報ビジネス専門学校 福岡校

 九州事例トラックの冒頭、受託開発とAWSについて講演を行なったのはFusic エンジニアの小山健一郎氏。Fusicは業務システムやEC系などのWebシステムをメインに手がける福岡のシステム開発会社で、APNアドバンスドコンサルティングパートナーともなっている。「ネットに載っているAWSを使ってみた事例でキラキラしているのはあくまでWebサービスの開発。受託開発で痛い目を見るので、自らの要件にクラウドがマッチしているのかをきちんと見てもらいたい」(小山氏)とのことで、前半はクラウド事例、後半を受託開発とAWSの相性について語った。

受託開発とAWSについて語ったFusic エンジニア 小山健一郎氏

 Fusicが手がける案件は業務系システムの受託開発が多く、システムの新規開発のみならず既存システムのリニューアルなども手がけている。インフラからアプリケーションまで手がけることが多く、自ずとエンジニアがフルスタック化する傾向があった。「DevOpsは正直よくわからない。1人で全部やるし、お客様と直接コミュニケーションもとります」(小山氏)。また、開発規模は最大でも5人という規模のため、自社のWebサービスでもインフラ系のエンジニアをアサインできなかった。こうした経緯からアプリケーションエンジニアが、AWSでインフラを扱うようになったという。

 現在、同社は大規模CMSのAWS移行、自社の中途採用フォーム、Dropbox的な企業向けファイル共有などでAWSを活用。高負荷時の対応やデータのバックアップ、障害時の復旧、データ移行時のスペック強化などの場面において、インフラ構成の選択肢が多くなったという。また、リリース直前でのインフラの変更やステージング環境の構築、一時的サイトなどで柔軟性を確保できるようになったほか、インフラ構成をコード化しやすいというAWSのメリットもある。

アプリケーションエンジニアがインフラを扱えるようになり、大規模なサーバー構成でも提案できるように

 小山氏は、さまざまな面で受託開発にクラウドは向いていると結論づける。すでにFusicにおいては、クラウドがプログラム言語と同じようなカジュアルに存在になっており、営業や経営層のほか、お客様までその認知が進みつつあるという。小山氏は「AWSのサービスは多すぎるが、すべてを使いこなす必要はない。新しいからといって難しいことはなく、今までと少し違う概念があるだけ。新たにプログラミング言語を覚えるより簡単」と語り、(Web開発を迅速化した)CSSやWebフレームワークと同じイメージに捉えられるという持論を披露した。

九州のIT企業はクラウドとどう付き合うか

 九州事例トラックの締めは、福岡のFusic、コム・アンド・コム、熊本のCLOUD-IA 、宮崎のアラタナ、沖縄の琉球インタラクティブなどが参加した座談会。コンサルティングやエンジニアなどさまざまな立場で、地方のIT業者がどのようにクラウドに携わっているかについて語った。

九州のIT企業5社による座談会

 まず各県の動向やクラウドの認知度はどうか? 熊本でコンサルティング業を営むCLOUD-IAの松岡祥仁氏は「クラウドに関して情報収集をし始めているお客様がいる一方、数年前にデータを消しまったという事業者の事故が役所関係ではけっこう尾を引いている。『クラウド?あんなわけのわからんところにデータを置いて、消されたらかなわんわ』という声はけっこういただく」と語る。また、沖縄は「新規開発だと、だいたいECサイトや多言語対応したコーポレートサイトのリニューアル。ホスティングで十分という案件も多い」(琉球インタラクティブ 新垣 雄志氏)ということで、クラウドを活かす案件自体が少ないという。

CLOUD-IA 松岡祥仁氏

琉球インタラクティブ 新垣 雄志氏

 とはいえ、クラウドの価値を活かせる案件も増えつつある。災害や防災システムでAWSを活用しているコム・アンド・コムの木村 健一郎氏は「お客様も成長を見越してサーバーを買うんだけど、『5年後は償却して資産価値がゼロになるし、入れ替えの時に停止が発生しますよ。それに比べてクラウドであれば、スモールスタートできるし、スペックアップするのも容易。価格も同じか、下がることもある。スピードを短くできます』と話すと、反応するお客様はいます」と語る。

 その他、「福岡県の企業が業務をスケールアップしようと思った時、オンプレよりも、これからはクラウドでやるんじゃないかというという感触を最近少しずつ感じつつある」(松岡氏)、「大規模な案件だとクラウドのコストが圧倒的に低廉になることが多いし、中小規模でもスパイクアクセスなど特殊な要件に強い」(Fusic 小山氏)、「Eコマースのサイトを運営する側としては、やはりスパイクアクセスに対応できること、操作も含めた柔軟性が重要」(アラタナ 月岡誠治氏)といったコメントも出た。

コム・アンド・コム 木村 健一郎氏

アラタナ 月岡誠治氏

 では、具体的にどのように価値を訴求するか? これに対しては、「どこでも働けるというクラウドのメリットをアピールすると、受注率も上がる」(松岡氏)、「ガラケーでのGoogle Analysticをあきらめてもらう代わり、S3で安く作れるとか、スパイクアクセスに対応できるといったトレードオフで提案する」(小山氏)などの意見が出た。

地方で重要な自治体案件をクラウドで獲得できるか?

 首都圏にITの仕事が集中している現状で、地場のIT企業はどこも生き残りに必死だ。「小さいソフトハウスは地場の仕事ではなく、東名阪のニアショアをやることがほとんど。一番安いところだと、1人月で30万円を切るところがある。よくやるなと思うけど、そういったところはじり貧に陥っている」(松岡氏)。

 この中で生き残りの鍵は「数十億ではなく、数百億円規模」(松岡氏)という自治体の案件にあるという。こうした案件は自治体自体が地元にお金を落とそうという意識が高いため、地場IT企業にとっては受注の確率も高い。しかし、過去にはインフラを運用できない地場のSIerにシステムを任せたため、散々な目にあったという自治体もあった。「とにかく安く受注していたので、マンションの一室にサーバーを置いて、ISDNを引いて作っていた事例もある」(松岡氏)。当然こうした案件は安定度の高い大手が獲得し、前述のようなじり貧に陥っている会社もある。

 その点、AWSがあれば、お金をかけなくとも、大手以上のインフラが作れる。「自治体のクラウド化は進んでいるとは言えないけど、少なくともオンプレとクラウドが同じ土俵に載ってきた印象」(松岡氏)とのことで、大手メーカーの案件を地方IT事業者が獲得する武器にもなりそう。クラウドを前提とすることで首都圏の案件を獲得したり、福岡や沖縄からむしろ近いグローバル展開を進めるのにあたってもクラウドが有効というコメントも出た。

 こうした九州事例セッションのほか、会場ではアマゾンウェブサービスジャバンの新エバンジェリストである渥美俊英氏、高岡将氏やソラコム玉川憲氏や東急ハンズの長谷川秀樹氏などが講演を披露。CDP道場やLambda+API Gatewayのハンズオン、AWS+kintoneやAWS+Twilio、AWS+WordPressなど他コミュニティとのコラボレーションも行なわれた。イベント終了後に行なわれ懇親会にも80名以上が集まり、多彩なLTが繰り広げられたほか、来年のJAWS FESTAが名古屋で開催されることもあわせて発表された。

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