失敗を資産にしてきたカシオの腕時計
── 和雄社長を継ぎ、社長になるという話が出たときはどう感じましたか。
(社長に)なるつもりはまったくなかったんですよ。それでも誰かが後継ぎになるという自覚はあったと思います。自分自身というよりは、樫尾家として誰かがやらなきゃいけないというのはすごく認識していました。次の世代が受け継がないといけないという意識は、うちのいとこを含めて、みんな持っていました。そこがたまたま自分だということであって。
── 天才と呼ばれた樫尾四兄弟の跡継ぎです。プレッシャーは感じませんでしたか。
これからです。カシオは大きく伸ばしていかなきゃいけないと思っているので、どこを変えていけるかが最大のポイントになると思います。
── 今期の業績は好調ですが、いまカシオの課題はどこにありますか。
時計だけが突出して、時計以外がかならずしも軌道に乗っていない。そこをちゃんとやっていかなければいけないだろうと考えています。
── コンシューマー部門はデジタルカメラ、プロジェクター、電子楽器が含まれます。今までは何が問題だったと見ていますか。
新しいジャンルを開けるような新しいものを生み出せていなかったと思うんです。他にないカシオらしい商品が出ているかと言うと、かならずしもそうではなかったんじゃないか。
── G-SHOCKやオシアナスのようにブランドを底上げできる製品がないと。
メタルアナログ市場では、アナログウオッチをエレクトロニクス技術で進化させて、オシアナスのような成果をあげてきました。デジタルウォッチの市場でも、G-SHOCKに匹敵するようなオリジナリティのある商品が必要だと思っています。
── たとえば、CESで発表したばかりのスマートウォッチですが。
スマートウォッチの領域は本来、もっともカシオがやるべき領域ですよね。すぐ売れるかどうかは置いておいて、いちばん期待されているはずでしょう。うちは1970年代からいちはやく時計に新しい機能を盛り込んできたんですよ。
── たしかにカシオは、GPS内蔵腕時計、心拍数計つき腕時計、非接触型ICチップ内蔵腕時計、電話機能つき腕時計、音楽プレイヤー内蔵腕時計、タッチ対応計算機つき腕時計など、新しすぎる腕時計を山のように作ってきました。
そうなんですよ。中には失敗した商品もあったし、時代が変わって他のものにとってかわられた商品もある。でも、その経験と技術は資産になって残っています。あきらめたわけではなく、いまになってようやく環境が整った、やるべきときが来たのではないかと。うちはPDAや携帯電話も作っていました。時計と情報機器の両方をやっている唯一のメーカーなんです。「PRO TREK」ではアウトドアでのフィールドテストを続けてきたし、どこよりノウハウの蓄積がある。使い勝手には自信がありますよ。
── 次の「G-SHOCK」になるような看板商品が、今こそ作れる。
本来、G-SHOCKは時計の枠に収まらないんですよ。カシオファンと一緒に築いてきた独自ジャンルです。だから競争がない。そういうジャンルをやらないといけない。お客さんを裏切らず、カシオらしいモノづくりが続けていられたからこそ、競争がなかったわけです。アナログは根本的にいえば他社と変わらない。メタル・アナログ以外の領域はいっぱいあります。スマートウォッチもそうですが、PRO TREKみたいな計器的なものもやっていきたいと思っています。大事なのは「指名買い」のジャンルをいかにつくれるかということなんです。
── 大事なのは「俺たちのカシオがやってくれた」という、あれなんだと。
わたしは「カシオらしい」という言葉が好きなんです。「どこらしい」といえる会社って、いまやアップル、ソニー、うちくらいじゃないかと思っているんですよ。
── 大きく出ましたが、どういう話ですか。