インターネットこそが、最大かつ最良の電子書籍である
そしていま、われわれの周囲には多種多様な紙の新聞や雑誌、書籍が満ち溢れているだけでなく、日々膨大なテキストが誰かによって書かれ、そして読まれる、インターネットというテキストの横溢空間が存在する。
まさにエーコが述べているようにインターネットそのものがすでに“グーテンベルクの銀河系”であり、広大無辺な電子書籍なのだ。
インターネットの特性というと、われわれはついつい、そのインタラクティブ性やマルチメディア性ばかりをあげつらいがちで、実はほとんどの情報がテキストであることを忘れてしまっているのではないか。
マーシャル・マクルーハンが「メディア論」の中で、アテネに学校を作ろうとしていたプラトンと、アテネという町自体の関係についてこんな表現を用いているのは言い得て妙である。
“プラトンは、理想的な訓練学校を考えようと努力したにもかかわらず、アテネの町こそ夢に描いたいかなる大学よりも偉大な学校であることに気づかなかった。言い換えれば、最大の学校は、それが考え出される前に、すでに利用できるように差し出されていたのであった。ところで、このことは、とりわけわがメディアについて言えることである。考察の対象になるはるか以前に、提出されている。”
これはまさに今回考察した電子書籍とインターネットとの関係に置き換えられるのではないか? いわゆる電子書籍が市場に投入される以前から、インターネット自体が最大の電子書籍だった。
紙の書物になっていない情報の途方もない蓄積がすでに存在しているわけだから、紙の書物をデジタルしただけの電子書籍にとりたてて新鮮味を感じない理由はそのあたりにある。
紙の書物として出版されているものを、あえてデジタルバージョンで読む理由は、それが紙バージョンとは比べものにならないほど安価か(場合によっては無料)、紙バージョンがすでに絶版状態で入手困難になっているか、紙バージョンが分厚すぎる、もしくは巻数が多すぎる……くらいしかないだろう。
結果として、2000年の歴史を持つ紙の書物は今後もしぶとく命脈を保っていく。
著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。現在、「エディターシップの可能性」をテーマにしたリアルメディアの立ち上げを画策中。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。
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