KDDI向けに端末を供給してきたHTCだが、ここにきてついにSIMフリー端末の投入に踏み切った。発売されるのは、「HTC Desire EYE」および「HTC Desire 626」。Desire EYEは昨年発表されたモデルだが、高いスペックと前後両方のカメラが1300万画素でセルフィーに強いのが特徴。一方のDesire 626はDesire EYEのデザインテイストを引き継ぎつつ、実勢価格で3万円台前半というSIMフリー端末の“ど真ん中”を目指すモデルだ。
今、あえてHTCがSIMフリー市場に参入した意図はどこにあるのか。また、同社はどのような考えを持ってこの市場を攻略していくのか。HTC NIPPON代表取締役社長の玉野浩氏に日本市場での戦略を伺った。
優れたデザインと品質を両立する端末を
キャリアがカバーしない領域に投入する
――すでにSIMフリー市場には、競合がひしめき合っています。今、あえてこのタイミングで市場に参入してきた意図を教えてください。
玉野氏:SIMフリーの市場ができてきたのは、去年末ぐらいからだと認識しています。MVNOのプロモーションもされ始め、そこにHTCと同じ台湾ベンダーのASUSや、中国のファーウェイ、韓国のLGエレクトロニクスなどのグローバルベンダーが出てきました。
一方で、今年に入っても、SIMフリー市場ではなかなか品質やクオリティーの訴求がされていないと感じ始めました。私がHTC NIPPONの社長に就任したのは今年1月ですが、3月ぐらいにはかなりの疑問を感じていました。
調査をしていくうちに、これは我々もやらなければいけないのではないか。キャリアとも当然そのままお付き合いさせていただきたいのですが、(SIMフリーも)市場としての見通しが立ってきました。本社と相談し、入るならこの時期を逃してはいけないと合意をして、その上でどんなものをローンチしたらいいのかを議論してきました。
HTCにはいろいろな機種があります。フラッグシップには「HTC One M9」がありますし、今年末にも新しいものを発表していると思います。ただ、それはどちらかというとキャリアのフラッグシップにぶつかってしまうもの。価格帯としても、受け入れられないのではないでしょうか。
限度は5万円前半です。そういう意味では、Desire EYE(予想価格税抜5万2800円)がスペック的にも、使い勝手的にも本当に使えるフィーチャー(機能)が満載です。防水、防塵もグローバルのSIMフリーモデルでは初めてではないでしょうか。ちょっと古いというご指摘もありますが、投入する意味合いはあると思います。
逆に、スイートスポットの価格帯には何を持ってくるのか。(Desire EYEの)流れをくむデザインであった方が、訴求はしやすくなります。今までは、量販店にはわざわざお出かけになって購入される方は限られていました。そうすると、どうしても名指しでこのスペックでこのベンダーの機種がいいという買い方になります。そこを狙うためには、ファッショナブルなものを持ってこないといけないという思いがありました。
――つまり、ひと目見てわかるインパクトを出すために、あえてこのチョイスをしたということですか?
玉野氏:はい。明らかに違うことをアピールしたかったというのがあります。
――フラッグシップはやはり厳しい、と。
玉野氏:それは考えていませんでした。フラッグシップというと、どうしてもキャリアのイメージが強い。しかも、シーズンで冬、夏と必ずリフレッシュされます。“素の値段”でいうとものすごい金額ですし、それで買っていただけるのかというと、まだそこまでにはなっていません。出したいところですが、今はグッと我慢です。
また、商戦期という意味だと夏がなくなってきていて、冬から新入学シーズンがメインになってきています。そこにぶつけないと、商品が売れません。ここでは、若い方がご購入しますからね。
――確認ですが、SIMフリー市場に参入したからといって、キャリア向けの端末をやめることはないですよね。
玉野氏:MVNOが伸びてくるのに従って、当然キャリアもそこに対抗しなければいけなくなってきますし、(ミッドレンジの)ニーズは出てくると思います。その辺については、我々は両方に対応できますし、バランスを見ながら、Win-Winの関係になれるようにしていきたいですね。
HTCの強みは技術と開発力の高さ
サポートも強化して知名度向上を目指す
――HTCの強みというのはどこにあるのか、改めて教えてください。
玉野氏:HTCの技術部門、開発部門は、真面目というか、非常に強いこだわりをもっています。テスト段階では、社内外のユーザートライアルのステップを踏んでバグをつぶしていきますが、フィールドに出てから出てくるバグも結構あります。ここも、こだわりをもってつぶしていける会社であるということを見ていただければと思います。
この端末(Desire EYE、Desire 626)も、導入を決めてから6ヵ月ぐらいかけています。商品としてすでに存在していたのに、そういうステップを踏んでいるのです。オリジナルはAndroidのバージョンもひとつ前でしたが、それをLollipopに上げ、Sense UIも6から7に上げています。
日本の電波状況に最適化し、ドコモのネットワークで問題が起きないのかというテストは当然やっています。JATE、TELEC、PSEなどの認証は当然のこととしてやっていますが、それはあくまで法律で取らなければいけないもの。そうではなく、エンドユーザーさんが困らないように、それ以上に追い込んでいくのかが我々の使命です。キャリアから教えていただいた経験もあるので、そこは活かしていきたいですね。
また、アプリケーションについてもAndroidのバージョンが上がったら動かなくなってしまったということがあります。Androidには“サイレントFOTA”と言われる、いつのまにかアップデートされている部分もあり、本来はそういうところの対応も見ていかなければなりません。ここはGoogleと黎明期のころからやり取りさせていただいたことが、財産として残っています。エンジニアどうしも常にやり取りしているので、何か問題が起きたらすぐに対応してもらえます。
――ちなみに、KDDIが嫌な顔をしたということはあるのでしょうか(笑)。
玉野氏:いえいえ。それはありません。HTCの知名度を上げたいというのがいちばんのモチベーションでしたし、その辺をご説明しました。結果として知名度が上がれば、auの端末も手に取ってもらえます。ここはWin-Winの関係にもっていきたい。
――事前に話はしていたんですね。
玉野氏:パートナーシップを組んでいるわけですから、そこはお伝えしてあります。会見ではau向けのMVNOはやらないのかという話も出ていましたが、そこもやらないわけではなく、タイミングの問題です。
――Desire EYEとDesire 626、目標台数はあるのでしょうか。
玉野氏:私としての目標はもっていますが、これは台湾の本社にも言いたくない(笑)。出荷台数の割合としては、Desire 626が2で、Desire EYEが1というところです。
――やはりDesire 626の方が多いと見ているわけですね。確かにSIMフリー市場は5万円が大きな壁になっていて、今3万円前後がひとつの大きな市場になっているという印象を受けます。
玉野氏:Desire EYEも5万円は切りたかったのですが、さてそれで本当にいいのかということもあり、チャレンジをしてみました。
最近お話を聞いていると、1万円台の端末もありますが、やはりゲームをやられるようなユーザーには、「きちんと動かない」などの不満があるようです。クアルコムのしかるべきチップを積んでいないと困るという声もあります。Desire 626は、そういうところにニーズがあるのではないでしょうか。
――なるほど。次にサポートについて伺いたいと思います。端末と同時にサポートの拡充も発表しました。
玉野氏:サポートセンターは今でも持っていますが、その機能を拡充しました。SIMフリー端末向けのトレーニングも済んでいます。なおかつ、SIMカードも提供させていただくので、そこでお困りにならないよう、切り分けてご案内できるようにするよう、今詰めているところです。
――SIMカードを販売する狙いを教えてください。
玉野氏:いろいろなユーザーサーベイをしていく過程で、どのSIMを買ったら問題なく動くのか、不安を持たれている方が多くいらっしゃいました。
――その不安に応えるため、ということですね。
玉野氏:はい。もちろん、MVNOごとに異なるAPNはすべて確認試験をしています。日本側と台湾側で耐久テストというか、APNに接続してアプリをずっと動かすような試験までしています。
また、初期設定の画面には、最初にAPNの選択が出てくるようにしました。そこで、OCNだったり、BIGLOBEだったりを選べるようになっています。
――それは通常のAndroidだと、出てこないステップですね。
玉野氏:まっさらな端末だと「ご自身で入れてください」となります。そこは1ステップ、日本向けにカスタマイズを入れたところです。
――そこも含めて、日本向けのカスタマイズはどの程度しているのでしょうか。
玉野氏:日本語インプットに関してはノウハウがあるので、そのまま資産をつぎ込んでいます。そのほか、APNの件も含めソフトで対応できるところはすべて対応しています。逆にハード的にはできるだけいじらない。そうしないと、パーツが変わってしましますからね。グローバルSKUの中のハードを使い、ソフトでできるところはやるという方針です。
――対応バンドという面も、グローバル向けと一部異なるところがあります。
玉野氏:クアルコムと共同で、いじれるところはいじっています。アンテナ設計も、当初から日本対応はできていました。もちろん、ここは日本でキャリア向け端末の経験をしている強みもあります。
――現状、HTCのブランド力はどの程度あると認識していますか。それを踏まえて、今後、どのようにSIMフリー端末をプロモーションしていくのかをお聞かせください。
玉野氏:我々もキャリアもさまざまな調査をやっていますが、正直申し上げて、知名度というところでは、他社さんよりちょっと低いのが現状です。ただ、お使いいただいたあとの満足度は他社さんより高い。ですから、いかに手に取っていただくかが課題と考えています。
その部分では、テレビで宣伝したからといって販売が伸びないというのも見えてきています。クチコミ、デジタルメディア、SNS、ブログなど、この辺を総合的に使っていくつもりです。
発表会にお呼びしたゲスト(大渕愛子さん、大澤玲美さん)の方も発信力がある方です。コストに厳しい主婦向けと、若い方両方をカバーしたいという意味がありました。
――なるほど。本日はありがとうございました。