東京工業大学は9月4日、ビスマスの薄膜が半導体としての性質を持ち、次世代の高速電子デバイスとして可能性があることを発表した。
物質中の電子のなかでも、通常の電子とは異なる状態にある「ディラック電子」が非常に移動度が高く、超高速電子デバイスとして利用できるのではないか、という研究が世界各地で進んでいる。金属元素ビスマス(Bi)は固体の状態でディラック電子を持つことは分かっていたが、半導体でないため電子デバイスとして向かないとされていた。
物質が半導体であるかどうかは、結晶構造の中にバンドギャップと呼ばれる電子が、存在できない領域があるかどうかが大きな意味を持つ。例えば炭素二次元構造のグラフェンは独特な物性が電子素子として期待されているものの、バンドギャップを持たないためそのままでは半導体素子として利用できない。
ビスマスもまたバンドギャップを持たないが、30nm以下の薄膜にすれば量子力学的なふるまいが現れて半導体になると1967年に予想されていた。しかし約50年におよぶ研究にもかかわらず、実際にビスマス薄膜で半金属半導体転移が起きたという実験的証拠はなかった。
今回、東京工業大学大学院理工学研究科と東京大学、自然科学研究機構分子科学研究所などの研究グープでは高品質のビスマス薄膜を作成し、その電気的特性を分子科学研究所のシンクロトロン放射光施設UVSORで測定した。その結果、予想値の30nmよりも厚い70nmで半導体になっていることが判明した。また、10nmよりも薄いと量子サイズ効果とは別の現象により、半導体にはならないという現象も新たに判明した。
研究チームでは、、極薄の薄膜によって現れた電子のふるまいといった新たな知見とともに、高速デバイスへの研究開発などへの進展する研究成果だとしている。