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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第1回

新国立競技場とスマホ、スペックで考えるとわかること

2015年08月04日 17時00分更新

文● 前田知洋

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芝イベント26日 vs コンサート12日

 サッカーやラグビーなどのためには、本物の芝とその育成のために太陽光が必要。これに対し、コンサートなど音出しイベントでは、音響や近所の環境などを考慮して遮音のための屋根が必要になってしまいます。さらにコンサートではアリーナにも観客が入場するので、芝を守るために硬い床を敷くか、可動式で芝を収納する設備を設置しなければなりません。こうした設備にお金がかかるのですが、JSCによると、芝生が必要なイベント26日(サッカー21日、ラグビー5日)に対してコンサート12日(設営を含まず)。

FIFAの試合では人工芝も認められるようになったが、Jリーグの試合は天然芝のみ

 コンサートによる収入の試算は年間6億円だそう。旧ザハ案の屋根工区の見積りは、950億円。う~ん、年に12日のコンサートのために可動式屋根と可動式床(芝生)に巨額の設備投資をするのは、もったいない気がするのは筆者だけではないはず。

1年の稼働日数は172日(うち会場設営、撤去は62日)

 これもJSCの試算ですが、オリンピック、パラリンピック後の年間稼働日数は172日。会場設営と撤去を除けば、実際にイベントがおこなわれるのは110日です。まぁ、これだけでも中の人は大忙しだと思いますが、200日以上閉まっている施設なら、イベントをやっていないときにも役に立って欲しいところです。

 そうであれば、雨の日でもコンコースをジョギングできたり、観客席部分の屋根が太陽光発電パネルになっている伊東豊雄さんのアイディアはグッドだと個人的には思っております。

WTOの縛り

 新たなデザイン・コンペをおこなうにしてもハードルとなるのが「WTO(世界貿易機関)」。安倍首相も設計見直しの質問があるたびに、よく口にします。これは「政府調達協定」のことで、7億300万円以上の「公共事業入札・契約」には手続きや日数などに規定があり、文部科学省はそれを守らなくてはならないからです。今回のデザイン料は13億円。おそらく、「新たなコンペは間に合わない」というのは、WTOの規定の「行政機関の休日を含まずに39日必要」がその理由。募集手続きだけで、およそ、2ヶ月くらいかかることになります。ザハ案が選ばれたコンペの入賞案にすれば、そんな問題も解決されるはず。

クールさ、スペック、値段の関係

 もちろん、スポーツや文化などをコストだけで判断してしまうのは間違いです。デザインのクールさもそうで、値段が高ければクールかといえば、それも違う。新国立競技場は公共財産。「収益を上げて元を取ろう」は皮算用にすぎません。マジシャンでも「よーし!高い道具を買ったから、明日から仕事がバンバン来るぞー」なんて勘違いしちゃう人がたまにいます。

 スマホでもマジックでも競技場でも「必要な機能を満たすこと」はもちろん大切です。しかし、より重要なのは「ワクワクすること」「夢をもてること」のはず。それがクールなデザインなら、想定していた値段よりも少しだけ高い…。そんなふうに世界が回ると、みんなが幸せになる気がするんですよね。作る人も、買う人も、使う人も。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。現在、ビジスパからメルマガ「なかマジ - Nakamagi 3.0 -」、「Magical Marketing - ソシアルスキル養成講座 -」を配信中。

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