マスキング価格で5倍から10倍もの差異が
パソコン事業については、東芝が生産を委託している台湾のODMとの間で、「Buy-Sell」と呼ぶ取引を行っており、ここにおいて、不適切な会計処理が判明した。
東芝は、液晶パネル、ハードディスク装置、メモリなどの主要5部品について、東芝グループ(東芝および東芝国際調達台湾社=TTIPなど)で一括して購入し、これをODMに販売する仕組みを採用している。それはODMが部品を調達するよりも、東芝グループで調達した方が安いからだ。この仕組み自体は、外資系PCメーカーも実施している仕組みであり、問題はない。
東芝にとっても、ハードディスクやメモリは自社生産しており、部品調達面で優位性が発揮できるのは当然ともいえた。
だが、東芝はODMに対して、自らの調達価格がわからないように、一定金額を上乗せした価格を設定。そこに差額が発生することになった。これをマスキング価格と呼んでいたが、部品価格の下落とともに、東芝が設定した部品売却設定価格との差額が拡大。2012年度には、マスキング値差は5倍に達し、子会社を通じたルートでは、8倍もの差が出ていたという。
さらに、東芝は、TTIPを通じて、ODMで完成したPCを買い取り、東芝や販社を通じて、市場に製品を流通することになる。
東芝では、PCの納品があった時点で、製品価格からマスキング値差分を控除するよう、マスキング値差と同額をTTIPに対する未収入金として計上するとともに、製造原価を減額することで利益を計上。だが、東芝がODMに販売した部品が完成品に組み込まれて戻ってきているため、部品を販売した際に、利益相当額として計上したことに問題があった。
第三者委員会では、「商品取引時に、製造原価のマイナス処理を行うことによって、利益計上を行っているため、当該会計処理の適切性が問題となる。また、年々マスキング倍率が大幅に増加しており、調達価格の5倍を超える水準で、ODMと取引がなされていたことから、それを踏まえて、その適切性を検討する必要がある」と指摘。「部品取引と完成品取引は、実質的に一連の取引と考える方が合理的であり、これを前提とした会計処理を行うことが、当該取引を適切に表現することになる」とした。

この連載の記事
-
第606回
ビジネス
テプラは販売減、でもチャンスはピンチの中にこそある、キングジム新社長 -
第605回
ビジネス
10周年を迎えたVAIO、この数年に直面した「負のスパイラル」とは? -
第604回
ビジネス
秋葉原の専門店からBTO業界の雄に、サードウェーブこの先の伸びしろは? -
第603回
ビジネス
日本マイクロソフトが掲げた3大目標、そして隠されたもう一つの目標とは? -
第602回
ビジネス
ボッシュに全株式売却後の日立「白くまくん」 -
第601回
ビジネス
シャープらしい経営とは何か、そしてそれは成果につながるものなのか -
第600回
ビジネス
個人主義/利益偏重の時代だから問う「正直者の人生」、日立創業者・小平浪平氏のことば -
第599回
ビジネス
リコーと東芝テックによる合弁会社“エトリア”始動、複合機市場の将来は? -
第598回
ビジネス
GPT-4超え性能を実現した国内スタートアップELYZA、投資額の多寡ではなくチャレンジする姿勢こそ大事 -
第597回
ビジネス
危機感のなさを嘆くパナソニック楠見グループCEO、典型的な大企業病なのか? -
第596回
ビジネス
孫正義が“超AI”に言及、NVIDIAやOpen AIは逃した魚、しかし「準備運動は整った」 - この連載の一覧へ







