未来を描くスタートアップとマイクロソフトのストーリー 第7回
旅行バスの運転手出身の濱川さんが行き着いた日本の美学
世界に誇れる「おもてなし」を発信するOMOTENASHI
2015年08月12日 07時00分更新
おもてなしを形式知としてメソッド化
OMOTENASHIでは今まで曖昧模糊としていたおもてなしを形式知としてメソッド化し、ITを使って、150程度の教育コンテンツにまとめている。これをクレーム対応に悩むコールセンターや顧客ロイヤリティを向上させたい企業や教育機関のニーズに応じてコンテンツをアセンブリ。「OMOTENASHI STUDY」としてEラーニングで配信するのがコンテンツプロバイダーとしての同社のビジネスだ。
そして、この教育コンテンツの配信において用いているのが、Microsoft Azureだ。濱川さんがマイクロソフトのデジタルマーケティング系イベントで講演したのがきっかけでAzureを導入。技術面で弱いという弱点を、マイクロソフトのサポートがカバーしてくれているという。
なにより重要だったのは、マイクロソフトの面々がOMOTENASHIのビジョンに共感してくれたことだという。濱川さんは「ビジョンに共感し、応援してくれるので、パートナーとして信頼感を醸成しやすい。実際、医療業界をご紹介いただけたり、僕らのセミナーにマイクロソフトの方が登壇してくれたり、いっしょに歩いている感がすごく強い。マイクロソフトさんとの出会いは私たちにとって本当に僥倖」と高く評価する。コンテンツ配信のみならず、おもてなしの精神を具現化するために作られた、落とし物通知サービスである2ho.jp(http://2ho.jp/)もMicrosoft Azure上で運用されているという。
コンテンツからサービスへと進むOMOTENASHIビジネス
現在はEラーニングの教育コンテンツ提供から、より学習効果の高いサービスへの移行を進めている段階。「いつでもやめられるEラーニングで学び続けられる人は、もともと学習できるマッチョな人なんです。でも、日本のEラーニングは離脱した人を救う仕組みがあまり用意されていない自己責任の世界。なので、意志が弱い人でも楽しく学べて、僕らのフィロソフィーが浸透しているような仕組みが必要だと思っている」(濱川氏)
そのため、学習管理を完全にオンライン化するのではなく、人を介在させたアナログな手法を取り入れている。「ワークシートに花丸つけて、コメントを入れて、受講者を褒めるようにしています。人を介在させることで、気持ちよく学習してもらい、クオリティを上げていきます」とのことで、サービスにもおもてなしの概念を取り入れている。
また、資格制度を設け、研修を受けたユーザーのモチベーションを高める工夫も施している。「ある自動車会社ではショールームでお客様をご案内する女性たちに研修を受けてもらい、資格をとってもらった。その結果、ファーストコンタクトを担う彼女たちは、挨拶の仕方から現場で提言するように意識が変化し、『おもてなし効果』として社内報にも取り上げられた」(濱川さん)とのこと。資格を取得することで、チューターとして教える側に回ることも可能になるので、幅広い層にスキルトランスファーできると見込んでいる。
「おもてなし」に続く2本目の柱とは?
7月にはおもてなし心あふれる商品やサービスを発掘し、国内外に発信するプロジェクト「OMOTENASHI SELECTION」の事業者募集も開始。現在、国内を中心に展開しているビジネスも、早い段階でグローバルに展開したいと考えている。「実際、ASEAN各国からは引き合いがある。サービス品質をメイドインジャパンのクオリティで提供できると、価格にプレミアムが付けられるんです。これを教えるために集合研修するのは難しいけど、Eラーニングなら提供できる」と濱川さんは語る。
また、おもてなしと双璧をなす柱として、OMOTENASHIでは「道徳」のコンテンツ開発を進めている。「道徳は教科ではないので、日本には道徳の先生がいない。義務教育では道徳は習うけど、高校・大学で道徳は習わない。でも、社会人になると道徳って必要になってくる。これだけコンプライアンスが叫ばれ、異文化とのコミュニケーションが増える中、自分たちのよりどころになるフィロソフィーが重要になってくる」とのことで、社会人の道徳をコンテンツ化していく。
おもてなしと異なり、道徳はすでに理論が確立されているが、難解な教材しかないのが現状。OMOTENASHIはそこに踏み込み、難しい内容を説き施して、パッケージング化。内定者研修などを想定し、企業のコモンセンスとして確立できるコンテンツを作り上げていくという。
技術やツールではなく、“流儀”のグローバル化を目指すOMOTENASHIの取り組み。日本の美学を再発見し、そこから顧客満足度向上の施策につなげていこうというユニークな試みは、新たな日本型スタートアップの登場を予感させる。
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