今回のスーパーコンピューターの系譜は前回の続きでNVIDIAのGPUである。GeForce 8000シリーズ、あるいはG80世代というべきかもしれないが、この世代でGPGPUに名乗りを上げたNVIDIAだが、いきなりこれでGPGPU全盛になった、というほど話は簡単ではなかった。

G80世代の代表作「GeForce 8800 GTX」
G80世代の最初の製品は、2006年11月に投入された「GeForce 8800 GTX」である。こちらの記事の写真にもある通り、G80コアでは16個のSP(Streaming Processor)を1つのブロック(SPA:Streaming Processor Array)とし、これを8つ並べた形である。チップ全体としては128SPという計算になる。
各々のSPAの中は下の画像のように構成されている。テクスチャーユニットが配されるのは、まだGPGPUとしての用途よりもGPU用途が多いからで、これに2つのSM(Streaming Multiprocessor)が組み合わされる。
各々のSMは8つのSPと2つのSFU(Special Function Units)から構成される。1つのSPは32bitのMAD(Multiply-Add)ユニットで構成されるもので、整数演算とIEEE754に準拠した32bitの浮動小数点演算が可能である。
このMADユニットは名前の通り加算と乗算が可能なもので、逆に言えばそれしか出来ない。実際実行できるものはADD/MUL/MAD(Multiply-Add)/MIN/MAXといった演算に限られる。
ただ、GPUやGPGPUに求められる演算の大半がこれで済むとは言え、これ以外の計算も時には求められる。それを実行するのがSFUで、RCP/ESQRT/LOG/EXP/SIN/COSといった特殊な演算や値の補完、これを応用した逆数の計算などが実行できるようになっている。
さて話を戻すと、2つ上の画像では8つのSPAとそれ以外では、動作周波数が異なっている。GeForce 8800 GTXの場合、コア全体(SPA以外)は575MHz動作なのに対し、SPAは1350MHz駆動となっており、2.34倍というやや変則的な周波数比である。
この比は一定ではなく、だいぶ後に登場する「GeForce 8800 GT」(G92コア)ではそれぞれ600MHzと1500MHzで2.5倍設定となっている。要するにかなり自由に設定できるようになっているわけだ。なぜこのような複雑な方式を取ったかはいくつかの要因が考えられる。
G80はNVIDIAにとって初めてのGPGPU構成の製品であり、GPGPUに使うときにシェーダーとメモリー、周辺回路がどのような頻度で使われるかは完全に読みきれなかった。
ただ、もともとDirectX 10のUnified Shader化により、GPU側は1つのシェーダーコア(上の画像で言うところのTPC)がひたすらブン回る構成を考えていた。
こういう場合では実装の方法は2つあり、下のどちらかになる。
- Unified Shader 4つをそれぞれShader A/B/C/Dの役目に割り当てるパイプライン方式
- 1つのUnified Shaderを4倍速でブン廻す方式
G80の場合、シェーダー数そのものは128とそう多くないため、パイプライン方式では間に合わないと判断したのだろう、ぶん回し方式を取るのはある意味必然とも言える。加えて言えば、G80の世代は90nmプロセスで製造されていたが、当時のTSMCの90nmでGPU全体を1GHz以上でブン廻すと、消費電力がかなり大きくなることも考えられた。
それにメモリーコントローラー(GDDR3 900MHz)や2次キャッシュなどは別に1GHzを超える速度でブン廻す必要は皆無であり、500~600MHzで十分間に合う程度だった。このあたりも、設計のバランスを考えると分離して別々の速度で動かすのがリーズナブルと考えられた。
→次のページヘ続く (G80世代では思った性能が出ない)

この連載の記事
-
第814回
PC
インテルがチップレット接続の標準化を画策、小さなチップレットを多数つなげて性能向上を目指す インテル CPUロードマップ -
第813回
PC
Granite Rapid-DことXeon 6 SoCを12製品発表、HCCとXCCの2種類が存在する インテル CPUロードマップ -
第812回
PC
2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート -
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート - この連載の一覧へ