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アクセンチュア「グローバルCEO調査2015」で浮き彫りになった世界との温度差

日本の経営者はデジタル化で市場が一変する脅威に気づいていない

2015年07月02日 09時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 アクセンチュアが7月1日に国内発表した「グローバルCEO調査 2015」の調査結果からは、IoTやデジタル技術の変化によってもたらされる環境変化において、日本の経営者とグローバル平均の意識に大きな差があることが浮き彫りになった。

発表会に出席した、アクセンチュア 執行役員 戦略コンサルティング本部統括本部長の清水新氏

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクターのジェフリー・バーンスタイン氏

 グローバルCEO調査は、アクセンチュアが、英エコノミスト誌の調査部門であるEconomist Intelligence Unitと共同で行っている世界の企業経営幹部を対象にした経営意識調査で、IoTなどのデジタルテクノロジーの進化がビジネスにおよぼす影響についてまとめている。

アクセンチュア「グローバルCEO調査 2015」の概要。日本の50名を含む計1405名のCEOに、デジタルテクノロジーの進化がビジネスに及ぼす影響を聞いた

IT/小売/製造/金融の4業界だけではないIIoTの大きな影響

 同調査によると、グローバルの経営者の68%が「今後12カ月の間に、競合企業がビジネスモデルを大きく変化させる」、同じく62%が「競合他社が市場を一変させる新製品およびサービスを投入する」と考えているという。一方で、日本の経営者ではいずれの問いでも16%がそう考えているに過ぎない。この結果から、アクセンチュアのバーンスタイン氏は「日本の経営者は、市場を一変させるような事業機会や脅威に気がついていない可能性がある」と指摘する。

 また「IIoT(インダストリアル・インターネット・オブ・シングス)」が新たな収益源になると考えている経営者は、グローバルでは57%であるのに対して、日本では32%に留まっている。「日本の経営者は、IIoTがオペレーションの効率化やコスト削減、生産性向上のツールとして捉えており、売上サイドに対するIIoTの可能性を低く見積もっている」(バーンスタイン氏)。

 ただし「競合他社がビジネスモデルを変える」と考えている日本の経営者だけに絞ると、グローバルの経営者と同じように「IIoTが新たな収益源になる」と捉えている経営者が多かった、とバーンスタイン氏は説明した。

日本企業の経営者は「市場を一変させるような事業機会や脅威」に気づいていない可能性がある

グローバルでは、IIoTに対し「新たな収益源創出」の期待が多く集まっている

日本でも、「競合がビジネスモデルを大きく変える」と考える経営者は「収益源」としてのIIoTに期待している

 IIoTがもたらす恩恵も、グローバル平均と日本では捉え方が大きく異なっている。IIoTの恩恵を受ける業界について、日本の経営者の回答は「IT」「小売」「製造」「金融」の4業界に集中しており、日本では“ドットコムブーム”のようにIT産業とBtoC型ビジネスを中心とした「限定的なトレンド」と受け止められていることが浮き彫りになった。これに対してグローバルの経営者は、より幅広い業界にIIoTの恩恵があり、幅広い業界の枠組みを変えていく可能性を認識している。

 「今回の調査結果をみると、日本の企業がIIoTを『成長の機会』として捉えるようになるためにはさまざまな課題がある」(バーンスタイン氏)

グローバルでは、幅広い業界がIIoTの恩恵と影響を受けるものと考えられている

ミシュランもタイヤではなく「Tire as a Service」を売る時代に

 またアクセンチュア 執行役員の清水氏は、「経営者たちが異口同音に語るのが、自分たちのビジネスが毀損されている、ということ。その背景には『モノづくり競争』と『新たな顧客体験のエクスペリエンスを追求する競争』という、2つの競争環境が存在している」と語る。

 「アクセンチュアが、IoTではなく『IIoT』としているのは、IoTがインダストリーの範囲まで波及していることによる。『SMACS(ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウド、センサーネットワーク)』によって、2つの大きな競争が複合的に起き始めており、あらゆる企業が『モノ売り』の事業モデルから、『モノ+サービスによる成果を売る』事業モデルへと展開している」(清水氏)

「モノ+サービスによる成果を売る」ビジネスモデルへの転換が起きていると清水氏

 たとえば米GEでは、航空機のエンジンを開発するだけでなく、エンジンのセンサーから取得した膨大なデータに基づいて航空機のメンテナンスや運航計画の最適化を行い、航空会社の収益最大化を図るサービスへとビジネスモデルを転換している。また仏ミシュランも、タイヤの製造販売だけでなく、輸送会社が走行距離に応じたタイヤ使用料を支払うというサービス型ビジネス「Tire as a Service」を展開しているという。

ミシュランが新たに展開する「Tire as a Service」。輸送会社に対し「成果を売る」モデルを作ることで、単なる「モノ売り」を大きく超える潜在市場の獲得を狙う

 清水氏は、こうした例から「ビジネスと最新の技術を組み合わせて、新たなサービスを創出する力が必要である」と強調した。「グーグルのような10倍速のスピード経営、ヤフージャパンのような爆速経営が必要だ。創業から100年以上の歴史があり、30万人を超える組織を持つGEですら、ベンチャー企業の持つスピードを埋め込み、サービス事業への転換を図った」(同氏)。

 国内企業でも、ファーストリテイリングが先月、アクセンチュアと提携して「まったく新しい顧客体験」の実現を目指すことを発表している(関連記事)。これも、単にモノづくり(=生産)の土俵で中国企業と戦うのではなく、中国の生産能力を体内に取り込みながら、「次はどんな形でユーザーと関わるのかを考え、新たなデジタル時代の革新的な消費者向けサービスに取り組むものだ」と清水氏は説明した。

(→次ページ、「成果を売る」ビジネスモデル実現のために企業がなすべきこと

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