Elop氏にすべての責任を負わせるのには無理がある
Nokia側からElop氏をみると、さまざまな意見がある――もっともその多くは、批判的なものだ。結局はMicrosoftからやってきた同氏のもとで、Windows Phoneを採用したところ事業はさらに低迷し、最終的にはMicrosoftに売却することにしたことから、”トロイの木馬”だったのでは? という声すら聞かれる。
NokiaとMicrosoftの買収交渉が数回の時期にわたることから、Elop氏はMicrosoftが買収できる価格にするべくNokiaの業績を(意図的に)落としたという向きすらある。だが、この意見についてはNokiaの歴史を描いた「The Decline and Fall of Nokia」では否定されており、Windows Phoneの決断はElop氏の独断ではなかったという内容が記されているとのことだ。
元Nokia、そして現在もNokia(デバイスとサービス事業売却後のNokia)の人に当時の話を聞くと、この問題はElop氏の責任だけではないように見える。たとえばWindows Phoneを選ぶという決断よりもAndroidを選択すべきではなかったか、という質問について聞くと、ある幹部は「Androidでは差別化が図れなかった。あの段階ではWindows Phoneしかなかったと思う」と振り返った。
別の幹部は、「(Windows Phoneを選択した)当時でも世界最大の携帯電話メーカーだった。Nokiaの電話を買ってくれる人にフォーカスすべきだった」という声もあった。それはつまりSymbianのモダン化を推し進めるべきだったということだろう。
また、Elop氏の前に敷かれた3つのプラットフォーム戦略に無理があったことも否めない。刻々と変化する業界で、3つのプラットフォームで携帯電話事業を展開する余裕は、Nokiaでもなかったはずだ。
Kallasvuo氏は、「市場が急速に動いており、ついていけなかった。Google、Appleなど既存企業ではないプレイヤーが入ってきて市場を変えていったというのは、珍しいのではないか?」「戦略を明確な目標とともに実行に移すことが難しい」語っている(関連リンク)。
そういえば、2008年にSymbian Foundationが立ち上がったとき、あるNokia幹部が“Appleはコンピュータの歴史で主要プレイヤーになったことはない。常にニッチだった。携帯電話でもニッチだろう”とAppleを甘く見る見解をもらしていたことを思い出す。市場のスピードについていけない、状況が把握できない、自分のポジションを守りたい。いわゆる“大企業病”のようなものがあったことは否めないだろう。
だが残ったものもある。たとえば、Nokiaの戦略的プラットフォームではなくなった「MeeGo」チームは、自分たちの理想の携帯電話を追求すべくJollaを立ち上げた。フィンランドには元Nokia人材が新たに起業する動きもある。
さて、残ったNokiaはNokiaブランドのAndroidタブレットでデバイス分野に別の形で再参入する。Nokiaの新しい取り組みについては、また別の機会に。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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