3月7日、日本マイクロソフトは恒例のプレス向け説明会「メディアエクスチェンジ」を開催。今回は、日本マイクロソフト 業務執行役員 サーバープラットフォームビジネス本部 本部長の梅田成二氏による「Windows Server 2008 R2仮想化戦略」が披露された。
同氏がまず掲げたのは、IDCによる国内サーバー出荷状況の調査結果だ。リーマンショックで下がったサーバーの出荷台数だが、その後はじわじわと増加をしている。この増加を今後推進していくのが、仮想化だという。IDCのレポートでは、2011年のサーバー出荷台数に占める仮想化用途の割合は17%だが、2014年には26%に達するとしているのだ。
また、仮想サーバーの台数は、2桁の成長が続く見通しだ。2010年には1台の物理サーバー上で平均4.4台の仮想サーバーが動いているが、来年以降増加を続け、2014年には膨大な数の仮想サーバーが動くようになるという。
クラウド風が吹けば、サーバーが増える?
なお、「仮想化技術の普及により、物理サーバーの出荷台数は減るのでは?」という見方があるが、梅田氏はこれを否定。「クラウドを使い始めると、新たにサーバーの需要が出てくる」と述べた。国内の中堅中小規模の企業では、いまのところサーバーの導入数は少ないが、今後は増加するためだ。これは、
- メールやグループウェアなどクラウドサービスに利用が広がる
- クラウドサービスにはパスワード認証が必要
- 一般ユーザーにも、パスワード認証という概念が広まる
- 一般ユーザーは、メールにはパスワード認証があるのに、なぜローカルリソースには認証がないのか、これでは危険ではないかと思う
- ローカルにディレクトリサービスが導入される(サーバーが必要)
- ローカルとクラウドの両方で、個別にパスワード認証を行なうのは手間がかかる
- シングルサインオンが導入される(サーバーが必要)
- クラウドは従量制のため、すべてのデータを保存するコストがかかる
- 一部のデータはローカルに置こう(サーバーが必要)
という流れで、サーバーの台数が増えるというもの。
物理サーバーの出荷台数が増加するにしても、このような理由なのかの判断は難しいが、クラウドとオンプレミスの併用を提唱するマイクロソフトらしい分析といえるだろう。
Hyper-Vシェア拡大のための機能拡充
さて、仮想化環境の利用が増加する中、マイクロソフトが力を入れているのが独自の仮想化技術「Hyper-V」のシェア拡大だ。
Windows Server 2008とともに登場した初代のHyper-V 1.0は、シェア10%に達することもできなかったという。シェアが伸びなかった要因の1つは、機能の不足だ。サーバー仮想化の最大手であるヴイエムウェアの製品は、運用中の仮想サーバーをほとんど停止することなく、ほかの物理サーバーに移動する「ライブマイグレーション(いわゆるVMotion)」に対応する。しかし、Hyper-V 1.0には、ライブマイグレーションより移行速度が遅い「クイックマイグレーション」しかなかったのだ。
状況が好転したのは、2009年9月のWindows Server 2008 R2(Hyper-V 2.0)が登場してからだ。念願のライブマイグレーションに対応したHyper-V 2.0は急激にシェアを伸ばし、2010年第3四半期には32.1%に達した。同時期にVMware製品のシェアは35.5%であり、わずか3.4ポイントにまで肉薄したという。
そして、2011年2月に公開されたWindows Server 2008 R2のService Pack 1では、Hyper-Vの機能を強化。仮想マシンのメモリを動的に追加/削除を行なう「Dynamic Memory」、仮想マシンのグラフィックス処理を物理サーバーのGPUで行なう「RemoteFX」などが追加されている。
このような仮想化機能の強化により、「次は、仮想化シェアナンバーワンを目指す」(梅田氏)という。
シェア拡大のためのマーケティング戦略
国内におけるHyper-Vのシェア拡大の要因は、機能の追加だけではない。中堅・中小規模ユーザー向け、大規模ユーザー向けの2種類の取り組みもあるのだ。
中堅中小規模ユーザー向けに行なってきた、認定資格である「Hyper-V導入コーディネーター」の開始と、法人とパートナー向けに開設したHyper-V導入時の相談窓口「Hyper-V Direct」だ。Hyper-V導入コーディネーターは、オンラインで講習を受けられる初級の検定で、2011年2月末現在で7119名の合格者がいるという。
Hyper-V Directは、電話もしくはメールで受け付ける無料のサービスだ。ここでは、仮想化技術を利用する際に気になるライセンスの問題、他社製品との違いや移行方法、代理店やベンダーの紹介依頼などを受け付けている。
さらに新しく始めるのが、「Hyper-V仮想化推奨構成」だ。これは、Hyper-Vでの動作検証を行なったハードウェアによるリファレンスモデルの提供となる。どのようなハードウェア構成で、どれくらいのHDD容量が必要となるのかといった検証をユーザー側で行なうことなく、仮想化の導入が行なえるようになる。
一方、大規模ユーザー向けにはリファレンスモデルの提供をすでに開始している。ただし、大規模環境では、自社内に仮想化技術を使ったサーバーを構築するだけでなく、プライベートクラウドとの連携も視野に入ってくる。そのため、管理ツールなどのソフトウェアとの検証も行ない、ディプロイメント(展開)ガイドとして提供しているという。
大規模ユーザー向けでは、クライアントOSを仮想環境で実行するVDI(Virtual Desktop Infrastructure)の取り組みを行なっている。これには、シトリックスとの協業、デスクトップ仮想化ライセンスの見直し、そして前述のWindows Server 2008 R2 SP1によるHyper-Vの強化だ。
残念ながら、RemoteFXは対応するGPUが限られ、対応クライアントである「Remote Desktop7.1」はWindows 7版しか提供されていないといった制限があり、急激に利用が伸びるとは思えない。しかし、これらの新機能はWindows Server 2008 R2を導入していれば、追加コストなしで利用できる。環境が整えば利用は拡大するはずで、シェアナンバーワンの座も夢ではない、ということなのだろう。