携帯電話や無線LAN、地上デジタル放送など、電波を活用した無線技術はデジタル化の道をひた進んでいる。電波は本来、無尽蔵に使えるものではなく、周波数を考えて計画的に利用しなければ混信で使えなくなってしまう。それを解決するのが、通信のデジタル化である。無線通信のデジタル化は、仕事や生活を便利にしていく一方で、電波の有効活用にもひと役買っている。
※この記事は弊社刊行ASCII.technologies2010年12月号の特集1「ワイヤレスデータ通信のテクノロジー」の一部を抜粋したものです。最新のASCII.technologiesは、オンラインショップおよびお近くの書店でお求め下さい。
ひっ迫する無線通信
電波というものを、日ごろ意識している人はどれだけいるだろうか。現在、電波は非常に多くのことに用いられていて、湯水のように使えるものと思いがちではないだろうか。身近なところでは、携帯電話やテレビ・ラジオ、無線LANなどを思い浮かべるが、電子レンジや天気予報のレーダー、天文台の電波望遠鏡も電波を利用している。携帯電話などは、1億台以上も使われており、まだまだいくらでも増やせるのではないかと錯覚してしまう。
だが近年、無線通信がつぎつぎにデジタル化されている。携帯電話も、初期にはアナログで通信が行なわれていたし、テレビも地上デジタル放送への移行が進められている。これは、単に利便性や品質を追求しているだけではない。デジタル技術の圧縮技術を使うことで、使用する電波の周波数帯域を節約することも理由の1つになっている。
周波数帯域の利用計画
電波の性質として、周波数が一致すると干渉するというものがある。そのため、電波を通信に用いる際には、別々の通信で同じ周波数を使わないように配慮しなければならない。干渉のために、お互いがうまく通信できなくなってしまうのだ。だれもが好き勝手に電波を利用したら、互いに通信を邪魔しあう混信が大発生し、電波の利用価値は著しく下がってしまうだろう。電波が限りある資源だという理由は、ここにある。
このような電波干渉を起こさないようにするため、電波の利用は免許の必要な許可制になっている。そもそも電波とは、周波数が3kHzから3000GHzまでのものをいい、3000GHzを超える電磁波は光として扱われる(赤外線)。そして、電波は周波数によって特性が異なるため、用途によって使い分けられる(図1)。一般的には、周波数が低ければ電波は拡散しやすく、周波数が高くなるほど直進しやすいという性質がある。また、電波は周波数が高くなるほど、多くの情報を詰め込むことができる。よって、通信内容や目的、方式ごとに、適切な周波数帯があるということになる。
このような理由から、国内の電波利用は国際標準に則って管理されており、総務省の作った計画に従って周波数の用途が決められている(図2)。つまり、携帯電話は携帯電話だけ、テレビはテレビだけといったように、用途の違う電波が極力混在しないようになっているのだ。
電波の利用はデジタル化へ
ところが、技術の進化や生活レベルの向上にともなって電波の利用は年々増え続け、割り当てられる空き周波数もどんどん減ってきた。特に、利便性の高いVHF帯やUHF帯は、テレビ放送が大きく幅を利かせて空きがなくなってしまった。テレビ放送のデジタル化は、こうした事情が背景にある。大きく陣取っているアナログテレビ放送を排除し、新たな技術や用途に開放しようというわけだ。
一方、携帯電話も登場以来進化を続け、ユーザー数も爆発的に増えている。サービスの種類も増えて、帯域は足りなくなっていく。こちらも、もともとアナログだったものをデジタル化し、周波数の有効利用と利便化を図っている。特に近年は、インターネット接続や動画・楽曲配信などを背景に、データの大容量化が著しい。こうしたことから、第3.5世代(3.5G)や第3.9世代(3.9G)といった技術革新が起こっている。
また、2009年からサービスインしたモバイルWiMAXからも目が離せない。2.5GHz帯で利用されるモバイルWiMAXは、携帯電話に代わる大容量移動体通信技術として注目され、特にノートPCやモバイル機器のデータ通信用としてユーザーを増やしている。
微弱電波を用いた近距離デジタル無線
屋内の電波利用では、PCのLAN接続に用いられる無線LANや、周辺機器接続に使うBluetoothといったものがデジタル通信技術として挙げられるだろう。周波数帯によっては、微弱電波限定といった制限つきで無免許で利用可能な帯域があり、近距離向けの新技術はそうした帯域に集中する傾向がある。とりわけ無線LANとBluetoothが使用する2.5GHz帯のISM(産業科学医療用)バンドは、電子レンジなどでも使われ、非常に混雑した周波数帯となっている。
無線LANにおいては、普及当初IEEE 802.11bの通信速度は最高11Mbit/sだったが、IEEE 802.11g/aや、IEEE 802.11nの登場によって、最高54Mbit/sから数百Mbit/sへと高速化が果たされた。
Bluetoothは、当初はマウスやヘッドセットを無線接続するための技術として登場した。だが、その手軽さからいまやほとんどのノートPCや携帯電話に標準搭載されるようになっている。世代を重ねるにつれて通信距離は最大100mまで向上し、機能的にも接続可能な機器が充実してきた。
ただし、通信速度は最高1Mbit/sから3Mbit/sまで向上したにすぎず、動画のような大容量コンテンツを扱うのには不向きといえる。こうした用途には、UWB(Ultra Wide Band)を使うWireless USBや、ミリ波を用いたWirelessHDといった技術がある。UWBは、微弱電波でも桁違いに広い周波数帯を用いることで、ノイズに強くかつ100Gbit/sを超える大容量無線伝送を実現する物理層の規格だ。いまのところ、なかなか普及せずに足踏みしているが、今後が注目される。WirelessHDも、ミリ波の広い帯域を用いてGbit/sクラスの速度を実現することから、HDD接続などでの普及を期待したい。
電波は有限であるため、今後もデジタル化はどんどん進むことだろう。ASCII.technologies 2010年12月号では、こうしたデジタル無線技術の仕組みについて、詳細に説明している。興味をもたれた方は、ASCII.technologies本誌で続きを見てほしい。
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