今年のFC EXPO 2006では、従来の燃料電池(ハイブリッド)自動車に加えて、自動車以外の燃料電池で走るものが数多くのメーカーから出展された。中には車両登録を済ませてナンバープレートを得ているものも少なくなかった。現時点ではほとんど1台ずつ手作りで実装したものばかりで、コスト的あるいは燃料を供給するインフラ面などから、すぐに実用化される、というわけではないが、フル充填時の走行可能距離が100km、最高速度は時速60kmなどスペック面ではかなり実用に近づいている。
バイク 編
英国Intelligent Energy社のFCバイク“ENV”(プロトタイプ) |
最も人目を引いたのが、英国Intelligent Energy社が出展した先鋭的なデザインの“ENV”(プロトタイプ)だ。同社が“CORE”と呼ぶ、水素タンクと燃料電池部分を一体化したパーツを、通常のバイクのガソリンタンクおよびエンジン部分に格納している。COREの出力は1kWで、最高速度は時速50マイル(約80km)。COREに水素を満充填した状態で100マイル(約160km)の走行が可能。また、バイク全体の重さがCOREフル充填時で約80kgと軽量なのも特徴だ。同社では2007年前半の発売を目指して開発を進めているとのこと。
シートを上げるとCOREに水素供給口が露出する | モーターの駆動力がベルトドライブで後輪に伝えられる |
モーター付き自転車 編
より身近なところでは、燃料電池で発電してモーターを動かし、その駆動力を直接タイヤに伝えるモーター付き自転車が複数展示されていた。水素をボンベ(タンク)から発電ユニットに供給するためのジョイント部分(“カプラー”と呼ぶ)を開発・製造している日東工器(株)は自社の新製品が使われているということで、都立墨田工業高校の自動車科が製作した“FC(燃料電池)バイク”を展示していた。原付1種として車両登録(個別)を受け、ナンバープレートも取得したこのFCバイクは、“燃料電池×バッテリー×人力のトリプルハイブリッド”が特徴だという。最高巡航速度(平坦な道の場合)で時速25km、実験走行距離は約300kmで、前方のかごに太陽電池パネルを積んで日中は充電しながら走れるという念の入れようだ。
都立墨田工業高校の自動車科が製作した“FCバイク”。親しみやすいフォルムが特徴だ | ジャパンゴアテックスが展示したMTB仕様の燃料電池駆動二輪車“Aprilla” |
燃料電池のキャパシター(コンデンサー)などの材料となる高機能ポリマーを手がけるジャパンゴアテックス(株)には、MTB仕様のスタイリッシュな燃料電池駆動自転車“Aprilla”が展示されていた。40セル構造の燃料電池で最大出力1.2kWを得る。これを使って最高時速35km、走行距離60kmを実現するという。
変りダネ4輪車両 編
東京精電が展示した“Eco Coon”。移動タイプのカフェをコンセプトに開発したという |
東京精電(株)のブースでは、よく都内のオフィス街に昼時になると現われる、軽自動車/ミニバンを改良した移動式カフェを模した“かわいい4輪車両”が展示されている。燃料電池の動作時に発生する水(水滴)をイメージしたキャラクターと、“Eco Coon”“CAFE”のロゴがユニークだが、実はれっきとした車両登録済み(原動機付き自転車)の実用的な燃料電池車だ。水素ボンベ(圧力:20Mpa)を2本使って、150km程度を走行。燃料電池部分は荏原バラード(株)製で、1200Wを出力する。停車時にはコーヒーメーカーや照明などに給電するほか、被災地に移動して緊急時の発電装置(電源)としても使える。説明員は、“将来的には燃料電池を水素とガソリンの両対応にすることで、活躍できる場面を広げたい”と夢を語った。ちなみに、制作費は350万円で、その大部分が燃料電池ユニットだったという。
車内に張り出された登録証 | 前面にある燃料電池ユニット。水素タンクは側面に備え付けられており、チューブで供給している |
大同メタル工業(株)は、理科教材などに使えそうな小型燃料電池自動車模型“E-FCV II”を展示して、ちょうど集まっていた外国からの来場者が驚嘆の声を上げていた。小型燃料電池を模型の自動車に乗せたもので、ハンドルを回すことで充電⇒水を電気分解し、発生した水素は直結した風船に溜め込む。ある程度風船が膨らんだところでハンドルを取り外し、放電(燃料電池の発電)モードに切り替えると、車輪が勢いよく回りだす。水さえあれば動作するため、子供たちが楽しみながら燃料電池の構造を理解できそうだ。2月発売予定で、価格は2万円程度を目指すとのこと。
2月に発売予定という大同メタル工業の小型燃料電池自動車模型“E-FCV II” |