日本建築界を代表する建築家の黒川紀章氏。その黒川氏に、ThinkPadやコンピュータ全般について、お話をうかがった。聞き手はThinkPadのデザイン・マネージャー山崎和彦氏。
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黒川氏に「ThinkPad X30」と、「ThinkPad 10th Anniversary Limited Edition」を見せる。「ずっと黒というのは、なかなか骨があるね」。 |
[――]
ThinkPadのデザインをご覧になって、どうお感じになりますか? 黒一色で、TrackPointの赤いデザインポイントがある。ThinkPadはずっとこのデザインでやっています。
[黒川 紀章氏(黒川)]
いつごろから黒にしました?
[山崎 和彦氏(山崎)]
10年ほど前からです。
[黒川]
遅いよね(笑)。だって、僕は1960年代に黒を流行らせたからね。僕は黒しか着ないし、その頃最初に買ったポルシェも真っ黒だった。みんなからは「ハイヤーみたい」って言われましたが。だから遅い(笑)。もっと早く出せと。僕の事務所は以前はグレーの端末が並んでいたのだけれど、今は全部黒。100台の「IntelliStation(IBMのワークステーション)」が並んでいます。あの端末がずらっと並んでると相当かっこいい。
[山崎]
雰囲気が変わりますよね。
[黒川]
PCは透明になったり、様々な色のものが出ていて、多分IBMでデザインやっている人は相当気になっていると思うんだけれど。それを我慢して(笑)黒で行っているというのは、なかなか骨があると思いますね。
[山崎]
3~4年ぐらい前は黒ではないのがいいんじゃないかって、若干薄いグレーのThinkPadを出したことがあるんですが(ThinkPad i Seriesの一部の機種)、それを出したあと、やっぱり黒がいいとなりましたね。
[黒川]
でも、IBMってロゴが3色じゃない。これ、いやですね(笑)。しかも、斜めかなんか向いちゃって。
[山崎]
いわれのあるロゴなんですが。
[黒川]
いわれに囚われすぎ。
[――]
建築にも黒をお使いになりますか?
[黒川]
そうですね、国立民族学博物館は真っ黒。でも、建築っていうのはけっこう素材の色が面白くてね。メタルにはメタルの色が、木を使えば木の色がある。木を黒く塗ったりはしない。そういう意味では黒にこだわるということはないけれども、やっぱり僕の設計には黒が多いね。
建築とPCのデザインの
共通点は?
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黒川 紀章(くろかわ きしょう) 建築家 1934年生まれ。主な作品は国立民族学博物館(大阪)、日本赤十字社本社(東京)、ソニータワー(大阪)、パシフィック・タワー(パリ)、メルボルン・セントラル(オーストラリア)、ゴッホ美術館 新館(オランダ)、クアラルンプール新国際空港(マレーシア)など多数。 |
[――]
PCのデザインと建築のデザインには、何か共通点はあるのでしょうか?
[黒川]
ないね。
[――]
まったくないのですか?
[黒川]
PCの中に住めないもん(笑)。
[山崎]
外観の問題ではなく、もっと根源的な部分でまったく別だということですか?
[黒川]
そう。建築っていうのは風を感じたり、光を感じたり。つまり、人間が作ったものであろうと本来の自然であろうと、それらを「感ずる」ものでしょう。PCは「感ずる」っていうものじゃない。
[山崎]
PCの先にはバーチャルな空間があります。バーチャルなところのインターフェイスはPCですが、リアルなものへのインターフェイスが建築だとは言えませんか?
[黒川]
バーチャルなものっていうのは、PCというハードウェアを使って作り出されるけれども、ハードそのものがバーチャルにはならない。アートだったらね、絵を見ていてそのままバーチャルな世界に入れるでしょう? でも、PCを見ていてもバーチャルな世界にはいけない。操作しないとね。そこが違う。
建築は操作をしなければ感じられないものじゃなくて、中にいるだけで感じられるでしょう? そういうものを、PCから感じることはできない。操作することによってバーチャルな空間に行く。それはそうだよ。それはどんな道具でもそうだよ。
[――]
人が触れるもの、という点では同じではないでしょうか?
[黒川]
人が触れるものなら、何だって触れるじゃない。船だって、飛行機だって、カメラだって、テーブルだって。人が触れないものなんてないでしょう? 何だって人が触れる。そこに根本的な差はない。触れる触れないじゃなくって、操作して、そして自分が欲しい情報を得ていく。そういう操作のあとに来るものが、PCの面白さでしょう?
[山崎]
PCは道具で、建築は空間だと?
[黒川]
建築はもっと思想とか情念とか、宇宙観であるとか、哲学であるとか、そういうものを込めて作っている。僕は名建築、古代の名建築なんか見たとき、それは何を意図してどういう思想がここに詰め込まれているのか、感じることができるわけでね。でも、それをPCと比較してもらったんじゃ迷惑だね。その歴史的な長さがまるで違う。
[山崎]
だんだん融合していくとは思いますけれどね。今はPCの形で、コンピュータの役割はこういうところにあるけれど、これからいろんなところに入っていくと、今見ている道具ではなくなると思います。