プロバイダがバックボーンと接続するために設置する「コアルータ(バックボーンルータ)」は、ユーザーからの膨大なトラフィックをすべてさばく、インターネットインフラのまさに核。ジュニパーネットワークス(以下、ジュニパー)は、シスコの独壇場であったこの市場に、まったく異なるアーキテクチャを実装したルータを引っさげて参入した。今回は、同社日本法人・技術本部の西崎三浩氏に話を伺い、超高速処理を誇る「Mシリーズルータ」の優位性について語ってもらった。
バックボーンに特化した処理速度重視のルータ
――最近「ジュニパー」という名前をよく見聞きしますが、ご活躍のようですね。
西崎氏:弊社のルータと同等のパフォーマンスを出せる製品が他にないことが、ISPに認識され始めたためでしょう。これまでどのISPも、ネットワーク機器の選定はネームバリューで決めてしまう風潮にありました。「シスコなら安心」というようにです。しかし、昨今のインターネットブームで、処理するトラフィックが増えてくると、シスコのルータは必ずしもパフォーマンスがいいわけではないことに気づき始めたのです。
――具体的にお聞かせください。
西崎氏:ルータはそれがどこに設置されるかによって3種類に分類できます。エンドユーザーと直接つなぐ「アクセスルータ」、アクセスルータを集線する「エッジルータ」、エッジルータを集線してバックボーンに接続する「コアルータ」です。シスコのルータ(GSR)は、アクセスルータとしては抜群の機能性/拡張性を備えていますが、コアルータとしてはパフォーマンス上不利な設計になっています。
コアルータでもっとも重要なことは、「いかに速くルーティングするか」という効率性です。GSRは、エンジニア泣かせとでもいいましょうか、コアルータとして使う場合パフォーマンスを落とさないように非常に高度なネットワーク設計をしなければなりません。一方、弊社のMシリーズルータは、GSRとはまったく異なるアーキテクチャを採用して、コア用途に完全に特化していることが特徴です。
――アーキテクチャは、どのように違うのでしょうか?
西崎氏:GSRは「クロスバースイッチングアーキテクチャ」になっています。昔の電話交換機と同じ、マトリックス(方眼)状のパスを順次スイッチしていく方式です。ここでは、INとOUTの2つのバッファがあり、INに入ってきたパケットは「オービタ」と呼ばれるモジュールによって最適なルートを決められたあと、いくつかのスイッチングポイントを経て適切なOut側インターフェイスへ送られます。このしくみでは、いろいろなところから入ってくるパケットをルーティングするのに、「キューイング」(バッファに溜めておくこと)という処理が避けられません。キューイングが増えると、パフォーマンスが極端に悪くなります。これがトラフィックの輻輳やネットワークダウンの原因です。それを回避するようにネットワークを組むことは、非常に難しいことなのです。
Mシリーズは上記とは根本的に異なり、ハードウェアベースの実装になっています。IN側にパケットが入ってくると、宛先部分のみが「IP-II(Internet Processor II)」と呼ばれるASICに渡されてルーティングされます。それと同時に、ペイロードにあるデータはボード上のメモリに送られ、Out側からGETされるしくみになっています。つまり、実際にルーティングされるのは宛先部分だけなので、トラフィックがいくら増えても処理速度は落ちません。また、ボードが何枚挿さっていても、IP-IIではそれを単一のメモリ空間として処理します。
さらに、IP-IIではスクリプトを動作させられることも大きな特徴です。特定のコマンド列が記述されたパケットをフィルタリングすることでDoSアタックを防ぐことも可能です。ちなみに、IP-IIと、それを制御する「JUNOS」というOSは弊社独自の技術です。
――Mシリーズはどのようなラインナップになっているのでしょうか?
西崎氏:ネットワークの規模に応じて、全部で5機種用意しています。大規模向けのM160、中規模向けのM40/M20、小規模向けのM10/M5です。それぞれ「ラージコア」「ミドルコア」「スモールコア」と呼んでいますが、使われているテクノロジーはすべて同じです。異なるのは主に、収容できる光のインターフェイスの種類です。M160はOC-192(9.6Gbps)まで、M40/M20にはOC-48(2.4Gbps)までをサポートしています。
――マーケットシェアの推移や導入実績について教えてください。
西崎氏:ギガビットEthernetルータのマーケットでは、1998年Q3期までシスコの100%のシェアでした。しかし、2000年Q3期では弊社は29.3%までのシェアを占めるようになりました。現時点では、30%を超えていると思います。国内の導入実績としては、ユーユーネット、フュージョンコミュニケーションズ、国立情報学研究所(NACSIS)があります。