米マイクロソフト、米アドビシステムズ、および米アップルコンピュータの3社は、大手司法試験予備校の(株)東京リーガルマインド(通称LEC)を相手取り、ソフトウェアの不正コピーを行なったとして総額1億1400万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起したと発表した。
請求の内容は、(1)不正コピーされたソフトウェアの使用差し止め、(2)不正コピーされたプログラムをHDDから消去、(3)約1億1400万円の損害賠償、など。損害賠償額の内訳は、マイクロソフトが1843万6320円、アドビシステムズが7584万2400円、アップルコンピュータが2051万400円となっている。
訴状によると、'99年5月、LECの高田馬場西校において東京地方裁判所による証拠保全手続きを実施。同校に設置されたコンピューター219台のうち136台が検証され、原告3社のソフトウェアとして正規購入品18本、および不正コピー品545本(4782万8800円相当)が確認された。
LECではこれらのソフトウェアを使用して、法律テキスト教材の編集・作成、模擬試験問題の編集・作成、通信講座教材の作成などを行なっていた模様だ。
原告側の話では、LEC側に和解の申し入れを行なったところ、不正コピーの事実は認めたものの、賠償額について折り合いがつかず、今回の訴訟に至ったとしている。LECでは原告側が提示した賠償金額に対して、不正コピーしたソフトの小売価格相当分を支払うという申し出を行なったという。
不正コピーしたとされるソフトウェアの種類と本数は、以下の通り。
ソフト名 |
不正コピー数 |
正規購入数 |
マイクロソフト製品 |
||
Excel (Windows版) |
23本 |
0本 |
Excel (Macintosh版) |
52本 |
1本 |
Office (Windows版) |
41本 |
1本 |
Office (Macintosh版) |
3本 |
1本 |
アドビ製品 |
||
PageMaker |
142本 |
3本 |
Photoshop |
12本 |
1本 |
Illustrator |
74本 |
3本 |
アップル製品 |
||
MacOS |
32本 |
0本 |
クラリスドロー |
39本 |
1本 |
クラリスワークス |
41本 |
3本 |
マックドロー |
2本 |
1本 |
マックドロープロ |
36本 |
1本 |
マックライト |
48本 |
2本 |
ソフトウェアの不正コピーにあたっては、“Incongnito”というツールを利用して、アドビ製品のシリアル番号検索機能を停止させるという方法が取られていたという。このため原告側では、今回の不正コピーが意図的なものであり、悪質であると訴えている。
原告の米国企業3社は、ソフトウェアの権利保護を目的とする非営利団体のBSA(Business Software Alliance)に所属している。不正コピーについての情報は、'98年にLECの関係者から、BSAが開設する“BSAホットライン”を通じて提供されたものだという。
訴訟代理人弁護士の遠山友寛氏によると、BSAを通した調査を行なったものとしては、企業を対象とした不正コピーに関する損害賠償訴訟は日本で初めてのケースになるとしている。
東京・霞ヶ関の弁護士会館で会見した遠山友寛弁護士 |
なお、各社は日本法人を通じてソフトウェアを販売しているが、著作権は米本社に帰属しているため、今回の訴訟では米本社が原告となった格好だ。
遠山弁護士は今回の訴訟について、その目的を「無体財産権の侵害に対して、法的救済を厳しく求めていく」と語った。また、「著作権への理解がまだまだ深まっていない」としながらも、「会社のなかで不正コピーを行なっている人の多くが、それを違法だと思っているはず」との認識を明らかにし、今後の啓蒙活動につなげていきたいとした。
(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の久保田裕専務理事は、今回の訴訟に関して「無体財産権における秩序維持として刑事手続きもありえるが、それに値する事件と考えている」と、重大性を強調。また、アジア地区が不正コピーの温床となっているとした上で、「日本はアジアに向けて、メッセージを送らなければならない立場にある」と語り、本件訴訟の重要性を指摘した。
ACCSの久保田裕専務理事。3年前に起こった不正コピー事件では「真摯に対処してもらえたので訴訟にはならなかった」という |
今回の訴訟に関し、被告となった東京リーガルマインドの法務部では、「訴訟については弁護士に任せている。今回の件は訴状を確認していないので、現時点ではコメントできない」としている。