用途に応じて切り替える、アプリケーション管理の歴史
アプリケーションを切り替えたり、管理したりする方法が何通りも用意されているのは、ひとつにはパソコンの操作の中でも使用頻度の高いという理由がある。また、複数のソフトを立ち上げた状態をひとつの作業環境として扱い、ユーザーには特にソフトを切り替えるという操作を意識させないための工夫の成果でもある。
現在のパソコンでは、全体の動作を管理するOSと、個々のアプリケーションという大きく2種類のソフトが動作している。管理するためのソフトと、それによって管理されるソフトの対比は、ユーザーの目からもわかるだろう。
Windowsは、最初期の段階から、そうした構造がかなりはっきりと前面に表れる設計となっていた。OS側には「プログラムマネージャ」が用意されており、個々のソフトはその管理下で動作していた。Windows 95からデスクトップ左下に「スタート」メニューが導入されるなど、インターフェースは変化してきたが、Vistaに至るまで基本的な構成は変わらない。歴代のWindowsがよくも悪くも大きく操作性を変えずに発達してきたのも、こうした背景があるからだ。
当初はシングルタスクだった
それに対してMacでは、今では信じ難いことだが、当初は同時にはひとつのアプリケーションしか使えない、シングルタスクのマシンだった。パソコンというよりは、ソフトウェアプレーヤー的な性格が強かった。そのほうが、ユーザーにとってわかりやすいという面もあったが、それは主に当初の貧弱なハードウェアからくる制約によるものだった。
しかし、ハードウェアが増強されるにつれて、複数のソフトを同時に、あるいは素早く切り替えて使いたいという要求に応えるツールが開発された。
最初はアップル純正ではなく、個人の開発者の手による「Switcher」が登場した。
Switcherは、オリジナルMacの開発者の一人であるアンディ・ハーツフェルドが、アップルを退職後に独自に開発した。DOSの「Memory Shift」という切り替えソフトにヒントを得たという。GUIを利用した同様の機能としては、先駆的なものだ。現在のOSとは程遠い仕組みだが、ソフトを切り替えるインターフェースなどは、その後のMacに大きく影響を与えた。
次に登場したアップル純正の「Multi Finder」は、ひとつのソフトとしてのFinderの性格を、よりOS側に寄った機能として位置づけさせるものだった。
アップルメニューでは、「デスクアクセサリ」と並んでアプリケーションソフトが切り替えられるようになった。またFinderのアバウト画面ではほかのソフトの動作状況を確認できるようになるなど、Finderの管理ソフトとしての性格が強くなった。
System 7以降では、アプリケーションの切り替え機能は、メニューバー右端のアプリケーションメニューへ移行した。ここには、すでに「Hide Finder」「Hide Others」のように、現在アクティブなソフト、またはそれ以外のソフトのウィンドウを隠すためのコマンドがある。
OS 9では、それ以前のFinderのアバウト画面に代わる「このコンピュータについて」で、ソフトの動作状況を確認するだけでなく、アクティブなソフトを切り替えたり選択したソフトを終了したりできるように、管理機能が強化された。
こうして歴史を振り返ってみると、OSとしてはいささか不完全な段階から徐々にアプリケーション管理機能を強化して発達してきたことと、そうした段階的な発達が操作性に与えた影響は、今でも色濃く残っていることがわかるだろう。
筆者紹介─柴田文彦
MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。
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