「地球温暖化対策」が7日から開催されている北海道洞爺湖サミットの主要テーマになるように、二酸化炭素を主とする温室効果ガスの排出量削減は、産業構造から市民生活まで、幅広い分野での取り組みが求められている課題だ。
日本の製造業は省エネルギー化や省資源化、有害物質排出対策などで、環境保護の面でも優れた技術とノウハウを持つ企業が多い。インクジェットプリンターでお馴染みのセイコーエプソン(株)もそのひとつ。同社は「環境ビジョン2050」と題した独自の環境活動指針を定めて、率先して厳しい基準の実現に取り組むことで、CO2やほかの温室効果ガス排出の削減を通じて企業の社会的責任を果たそうとしている。
同社は先日、北海道千歳市にある同社千歳事業所に報道関係者を招き、千歳事業所での環境対策への取り組みについて説明を行なった。千歳事業所は同社のTFT事業部に属し、プロジェクター向け液晶パネルの製造を手がけている。
千歳事業所は新千歳空港の東側にある工業団地にあり、敷地面積は約16万m2。敷地の半分以上はまだ空き地(または駐車場)で、建物は7階建ての1棟のみとなっている。
2050年までにCO2排出量を10分の1に!
セイコーエプソンが指針とする環境ビジョン2050は、大雑把に言うと「同社の活動や製品から生じるCO2排出量を、2050年までに10分の1まで削減すること目指す」というものだ。洞爺湖サミットでは、「2050年までに温室効果ガスを半減する」という目標が掲げられていたものの、結局は目標としての合意には至らなかった。それに比べると、1企業の活動の範囲とはいえ、10分の1というのは非常に大きな、そして厳しい目標と言える。
環境ビジョン2050について説明した、同社 地球環境推進部 部長の田中規久氏は、グループで現在年間100万トン程度のCO2排出量を、年5%程度削減していくとの目標を掲げた。ちなみに、100万トンのCO2排出のうち、8割が製造そのほかにかかるエネルギー由来の排出で、2割が物流の際に生じているという。
4年で73%省エネ化されるインクジェットプリンター
高い目標を実現するためには、特に製品の製造に必要とするエネルギーを削減することが効果的だ。また、製品を使用する際に必要なエネルギーの削減、つまり低消費電力化も重要である。
後者について田中氏は、同社の液晶プロジェクター製品やインクジェットプリンター製品の低消費電力化の度合いを示すグラフを示して説明した。それによると、プロジェクターは1995年から10年間で消費電力を90%、インクジェットプリンターに至っては、2004年からの4年間で73%も削減したという。エアコンなどの場合、10年ほど前の製品と現在の最新機種では、年間消費電力が雲泥の差とよく耳にするが、プリンターも今では同様のようだ。
また、同社の中核技術である「マイクロピエゾテクノロジー」を、製造面で応用することにより、エネルギーと材料・廃棄物を削減する例も紹介された。そもそもマイクロピエゾテクノロジーとは、電気的に変形するピエゾ素子を利用して、素子の変形でナノグラム単位の液体を押し出すという技術だ。
インクジェットプリンターの場合は、インクをノズルに押し出すのに利用されているが、同社ではこの技術をプリント基板や液晶素子、さらには半導体ウエハーの製造まで、幅広い分野で応用しようとしている(関連記事)。
実際に千歳事業所で製造されている液晶パネルには、この技術が利用されている。また、将来プリント基板の製造に利用されるようになれば、現在の基板製造の際に生じている多くの廃棄物や廃液を大幅に削減できると目されている。廃棄物による環境負荷を減らすだけでなく、廃棄物・廃液処理に要するエネルギーも削減できるわけで、非常に有望な技術と言えよう。
