国際CIO学会主催による「第6回ワセダCIOフォーラム」が開催され、「地域社会との共生」「会社を変える CIO」「IT 国際競争力と CIO」といったテーマでパネルディスカッションが行なわれた。国際競争力に繋がるCIOの育成環境について産・官・学それぞれの立場から活発な意見が交わされた。
CIOの認知度と職業的地位の向上を目指す
11月22日、早稲田大学小野記念講堂で2007年度国際CIO学会秋期研究大会・CIO講演会「第6回ワセダCIOフォーラム」(国際CIO 学会主催)が開催された。
2006年1月に発足した国際CIO学会は「CIOに関する諸問題の研究および啓蒙活動」を目的とする団体で、CIOの社会的地位確立のための資格制度化やCIO専門の教育機関の創設などを提言している。今回第6回を迎える同フォーラムでは午前の部で学会員からの最新研究の発表が行なわれ、午後からはテーマ別のセッションが開催された。
早稲田大学教授 小尾敏夫氏の司会で「IT国際競争力とCIO」というテーマで行なわれたパネルディスカッションでは、日本企業の抱えるIT課題について、産・官・学それぞれの立場の出席者から意見が交わされた。セッション中の注目すべき発言を振り返ってみる。
質の向上が求められる日本のIT投資
まず、日本のCIOを巡る議論を行なう上で、そもそも日本のIT国際競争力は世界でどの程度のレベルにあるのかを知る必要がある。
BSA(ビジネス ソフトウェア アライアンス)日本担当コンサルタントで弁護士の水越尚子氏によると、英『エコノミスト誌』の調査機関が実施した「IT産業競争力のベンチマーク」の調査結果、「日本のIT産業の競争力は世界第2位」と述べる。(関連記事)特に特許取得件数や研究開発投資などの「研究開発環境」が優れていると評価され、トータルでアメリカに次ぐIT大国だという。
しかし、この意見に対して経済産業省大臣官房審議官でIT戦略担当の吉崎正弘氏は「実態を見ていくと、必ずしもそうは言い切れない」と反論する。
吉崎氏によると「近年IT投資は増加傾向にあるが、IT投資が生産性向上に寄与しておらず投資の効率が低い」延べる。そして、「IT化率」と生産性の伸びを表す「TFP変化率」の相関係数を算出した数値で比べてみると、「製造業」の分野で米国は日本の約2倍、「非製造業」の分野にいたっては10倍以上の効率を実現しているという。つまり、日本の多くの企業はIT投資額に見合った生産性向上を実現できていないのである。
吉崎氏の指摘する日本のITの実態に対して、東京大学教授の須藤 修氏はその原因を「経済社会に関する高度な知識とICTに関する高度な知識の両方を有する人材はきわめて少ない」ことを挙げる。
さらにマイクロソフト株式会社 代表執行役兼COO 樋口泰行氏が企業の実態についてアメリカと日本の企業の違いについて続ける。
「アメリカにはエンドユーザー側にITインテリジェンスが高い企業が多い。一方、日本は名だたる大企業でもまだまだコンサルタントに任せきりという企業が多く、ベンダーは少しでも高い製品やメンテナンスが必要なシステムを売るという売り手発想でシステム構築を行なうことが多い。企業に最適なITを実現できていない」(樋口氏)。
技術とビジネスプロセスに精通したCIO育成が急務
では、日本で企業が質の高いIT導入を実現するにはどうすればいいのだろうか。そのためにはCIOの役割の重要性が今後高まっていくと樋口氏は述べる。
「すでに、CIOが企業で求められる役割はオペレーション上の効率をコンピュータで高めるレベルではなく、企業戦略にどうITを位置づけるかという組織横断的な視点が必要。(以前、再建に携わった)ダイエーでは、いくら従業員ががんばっても利益がでないという状況だった。ビジネス構造が行き詰まったときに、ITを入れればうまくいくという簡単なものではなかったし、そもそもITは万能薬ではない。まず、経営陣が企業戦略をきちんと策定し、それに沿った形でITを位置づける。CIOがBPRについてまで考える必要がある」(樋口氏)。
日本は文系/理系がはっきり分かれており、一般的に経営者は文系のほうが多い。日本経済界において、松下電器産業でエンジニアとしてキャリアをスタートさせながら、MBAを取得し経営者として企業を渡り歩く樋口氏のような人材は希有な存在といえる。
須藤氏は「文系と理系の人材で双方に通じる人材がいなければ文系の情報系トップをCIO、理系の情報系トップをCTOという形にしてもいいが、理系の人が組織論を中心とした経営論を学んで欲しい」と述べるように、技術だけでなく経営も分かる人材育成の環境や制度をつくることが必要ということなのだろう。
小尾氏は「CIOはITと経営の融合を実践する存在で国際競争力強化の要」とした上で、「国際CIO学会として、CIOの資格を制度化や、“CIO学”を実践的に学ぶ一年制修士過程プログラムの創設を行ない、高度なICT人材育成を行なっていきたい」と述べる。
企業規模のいかんに関わらず、自社のビジネスプロセスに独自のIT戦略を構築できる人材育成が日本企業の急務であることを強調し、セッションは幕を閉じた。