参考イメージ Mathew Schwartz | Unsplash
半導体の受託製造で世界最大手の台湾企業TSMCの機密情報をめぐり、日本の半導体関連企業が揺れている。
2025年8月5日付の台北時報(TAIPEI TIMES)は、台湾の検察当局が、TSMCの元従業員3人の身柄を拘束したと報じた。この3人に対しては、TSMCが保有する、最先端の2nm半導体(ナノは10億分の1)に関する企業秘密を不正に取得した疑いが持たれている。
2日後の8月7日、日本の半導体の製造装置大手東京エレクトロンが、台湾にある同社の子会社の従業員が、事件に「関与していたことを確認した」と発表。すでにこの従業員を懲戒解雇したことを公表した。
この事件では、様々な情報が錯綜していているのだが、5日の台北時報によれば、台湾の検察当局は7月25日にこの事件の捜査を開始したという。その後、当局が3人を逮捕したが、5日のロイターの報道によれば、そのうち2人は、TSMCの現従業員で、残る1人は元従業員だという。一方、台北時報は、1人がTSMCの元従業員で、2人は最近TSMCを解雇されたという書きぶりだ。
この事件で流れ弾を受けているのが、日本のラピダスだ。ラピダスは、2nm半導体の量産を目指し、7月には2nm半導体の重要な部品の試作に成功したと発表している。先端半導体をめぐる競争を背景に、台湾では盗み出された情報がラピダスに流れたと報じたメディアもある。
ただし、ラピダスは2022年12月にIBMとともに、2nm半導体を共同開発すると発表している。「ラピダス黒幕説」に対して、このパートナーシップを根拠に、ラピダスが開発する先端半導体は、IBMの技術を基礎とし、そもそも技術体系が異なるTSMCから情報を盗み出しても利益が期待できないとの見方がある。
憶測なのか確定情報なのか判然としない情報も乱れ飛んでいるが、可能な限り落ち着いて、情報の整理を試みたい。
TSMCを追うラピダス
まず、この事件に登場する各企業について、あらためておさらいしておきたい。
東京エレクトロンは、日本のメーカーで、半導体の製造装置の製造を主力とする。台湾に支社があり、検察当局に身柄を拘束された3人のうち1人が、TSMCから東京エレクトロンの台湾支社に転職したとされる。
半導体製造装置は、日本企業が世界シェアの約3割(2021年)を占めている。東京エレクトロンは、中でもコータ・デベロッパと呼ばれる装置で世界的に優位にある。
TSMCは、ファウンドリという分野で5割超(2021年)のシェアを占める。ファウンドリは“受託製造”と翻訳されているが、他社からの委託を受けて、半導体の製造に特化するビジネスモデルだ。エヌビディアやアップルなどから半導体の製造を受託していることで知られ、世界の半導体産業をリードする企業のひとつだ。
ラピダスは、2022年8月に設立された日本企業だ。TSMCと同様にファウンドリのモデルを目指しているとされ、トヨタ自動車やソフトバンクグループ、ソニーグループなど日本の大企業が出資し、日本政府が全面的に支援している。
各企業の関係はどうか。製造装置の分野の一部において、東京エレクトロンは圧倒的なシェアを占めているだけに、TSMC、ラピダスの両社はいずれも、東京エレクトロンの製造装置を使っていると考えられる。一方、TSMCとラピダスは同じファウンドリとして、競合関係にある。ただ、ラピダスは創業3年目で、まだ具体的な実績はない。2027年の量産開始を目指しているため、はるか先を走るTSMCを追う立場だ。
2nm半導体を巡る競争

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