ステーブルコインに、大企業が次々に本格参入を決めている。
2023年9月5日の日経新聞によれば、三菱UFJフィナンシャル・グループとみずほフィナンシャルグループが、ステーブルコインを使った企業間決済で連携する。
三菱UFJ信託銀行が10月に新しい会社を立ち上げ、企業間決済網を構築する。この決済網に両メガバンクが加わるという。
米国時間の5日には、クレジットカード世界最大手のVISAが、企業間決済のためSolana(ソラナ)のブロックチェーンを活用すると発表している。
ステーブルコインの活用は、企業が取引先に送金する際に、コストダウンにつながるなどのメリットが期待される動きだ。
仮想通貨は送金の処理に時間がかかるため「決済には向かない」と指摘されてきたが、大企業の動きが活発になったのはなぜだろうか。
2022年末から動きはあった
三菱とみずほがステーブルコインで連携するというニュースは、実はそれほど新しくない。
通常、新しいニュースであれば、日経が報じた後に各社が後追い記事を出すが、そうした動きはほとんどない。「既報」のニュースだと判断したのだろう。
2022年12月21日に、3メガバンクを含む7社が「株式会社Progmat」(プログマ)の設立を検討すると発表している。「共同検討」への参加を表明したのは、以下の企業だ。
●三菱UFJ信託銀行
●みずほ信託銀行
●三井住友信託銀行
●三井住友フィナンシャルグループ
●SBI PTSホールディングス
●JPX総研
●NTTデータ
この時点で3メガバンクのうち、三井住友は中核会社の三井住友フィナンシャルグループが参加を表明していたが、三菱、みずほについては傘下の信託銀行のみにとどまっていた。
7日の日経新聞は、三菱、みずほの中核会社がこの枠組みに加わる点で、市場へのインパクトが高いと判断したのだろう。
おそらくコストは下がる
現在、企業も個人も、だれかに送金するときは、ほとんどの場合は銀行を使う。
送金元と送金先がそれぞれ同じ銀行に口座を持っている場合、振込手数料が無料になることもあるが、他行宛てに振り込む場合は数百円の手数料がかかる。
他行宛ての振込の場合は「全国銀行データシステム」を通じて送金される。A社がD社に送金する場合、おおまかな流れは次のようなものになる。
A社→B銀行→全国銀行データシステム→C銀行→D社
これがステーブルコインに置き換わる場合、おそらく次のような流れになるだろう。
A社→ブロックチェーン→D社
銀行による仲介がなくなるため、手数料は安くなるだろう。9月6日の日経の解説記事は「コストゼロ」と書いている。
では、今回の枠組みに加わる3メガをはじめとした企業はどこ儲けるのか。
おそらく、日本円をステーブルコインに交換する際に手数料を取る。
送金のスピードは?
国内の企業間の取引では、送金のスピードは、銀国による仲介がなくなるため、大幅に向上すると考えられている。
おそらく、問題となるのは海外への送金だ。現在、送金先の国・地域にもよるが、手続きを始めてから相手方への着金まで、おおむね数日かかる。
技術の面では、ステーブルコインの場合、ブロックチェーンを通じて、すぐに送金が完了するはずだ。
むしろ、壁になるのは手続きだ。
近年、仮想通貨の登場もあって、マネーロンダリングへの警戒は国際的に強まっている。
急に多額の海外向け送金をする、少額であっても頻度が多いなど、少しでも「疑わしい」と判断された送金については、銀行から送金を申し込んだ会社に連絡がある。
取引が「疑わしい」かどうかについてアルゴリズムでアラートを出し、最終的に人間が判断するフローは当面変わらないだろう。
そうなると、ステーブルコインが海外送金に使われるようになるとしても、すぐに送金に必要な時間が大幅に短縮することにはならないだろう。
クレカとステーブルコイン

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