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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第177回

イーロン・マスク氏のツイッター買収 「政治的」観点で見るとより興味深い

2022年05月02日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 イーロン・マスク氏がツイッター社を買う。

 買収総額は、440億ドル(約5.6兆円)と報じられている。

 米フォーブスの調査で世界一の総資産を持つとされる富豪は、やることが違うなあという素朴な感想が浮かぶが、今回の買収は素朴なだけではいられない。

 欧米のメディアは今回の買収をかなりの警戒感を持って報じている。各メディアの見出しを見るだけでも、その警戒感の強さがすぐに理解できる。

 たとえば、2022年4月26日付の仏ル・モンド英語版は“「とても政治的」(very political)な買収だとの見出しをつけた。

 米ニューヨーク・タイムズは「イーロン・マスクはそんなに悪いのか」というタイトルの論考を掲載している。

 英フィナンシャル・タイムズの見出しが、もっとも端的でわかりやすい。「民主党は恐怖し、共和党は歓喜する」と書いた。

 欧米のメディアを中心とする、警戒感の要因はなんだろうか。

「自由な」デジタルの街の広場

 ツイッター社は4月25日、マスク氏による同社の買収が合意に至ったとのプレスリリースを公表し、マスク氏の次の発言を引用した。

 「言論の自由は、民主主義が機能するための基盤で、Twitterは、人類の未来にとって欠くことのできない事柄が議論される、デジタルの街の広場だ」

 「デジタルの街の広場」という言葉は素敵に響くが、警戒感の要因は、マスク氏が主張する自由な広場のあり方だ。

 これまでの発言から、マスク氏が考える「自由な広場」は、大きく2つのポイントがあると思われる。

 まず、Twitterをもっと自由な発言の場とすることだ。具体的には、プラットフォーム側によるアカウントの凍結やツイートの削除を減らす。

 次に、アルゴリズムのオープンソース化だ。現状では、個人のアカウントが凍結されたとしても、なぜ凍結されたのか明確な理由は開示されない。

 アルゴリズムを公開すれば、仮に投稿が削除されたとしても、何が問題だと判断されたのか検証が可能になる。

 後者のアルゴリズムのオープンソース化については、すんなりと同意できる人が多いのではないか。

 街の広場で「言っていいこと」と「悪いこと」の線引きがはっきりし、特定の個人の発言やアカウントが削除されたとき、アルゴリズムがどう機能したのかも検証可能になるのなら、歓迎すべき変化だろう。

トランプ氏の存在

 一方で、より自由な発言の場とする方向性には、多くの懸念の声が出ている。

 懸念の背景にあるのは、ドナルド・トランプ前大統領の存在だ。

 トランプ氏はTwitterを好み、Twitter上の発言で影響力を高めてきた。

 しかし、2021年1月に起きた米ワシントンの連邦議会襲撃事件の際に、トランプ氏が暴徒たちを「愛国者だ」とツイートするなどしたことで、アカウントが永久に凍結された。

 トランプ氏は、ツイッター社の買収合意が発表された25日、Foxニュースに対する声明の中で、アカウントが復活したとしても、Twitterを使うことはないと述べている。

 前大統領はFoxニュースに、代わりに新しいSNS「Truth Social(TRUTH)」を使う考えを示したという。

 TRUTHは、急激にダウンロード数が伸びているものの、現時点ではTwitterほどの影響力はない。

 しかし、冒頭で触れた4月26日付フィナンシャル・タイムズは、「民主党議員の間では、前大統領がまだ考えを変える可能性があるとの警戒感が広がっている」と報じている。

 トランプ氏は、今のところTRUTHを使うと公言しているが、状況次第でTwitterに戻ってくることは十分に起こり得るとの米民主党側の「恐怖感」を伝える記事だ。

 同じ日のブルームバーグは、「トランプ氏には、11月の中間選挙に向けて影響力を行使できるタイミングで復帰できる可能性が出てきた」と書いている。

さらなる分断の予感

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