約642年前の出来事を光で知る
超新星爆発。質量の大きい恒星がその一生を終えるときの壮大なイベント。周りの天体に影響を及ぼすガンマ線バーストなどはまっぴらごめんですが、できればこの目で一度は見てみたいですよね。
超新星爆発は、一つの銀河内ではだいたい30〜50年に一度と言われておりますが、たくさんの銀河に囲まれた我が太陽系。実は見えないところで結構な頻度(数秒に1回レベル)でポンポン爆発しています。ですが、よっぽど性能がいい望遠鏡や観測装置がないと、爆発した様子(星の増光)を捉えることはできません。望遠鏡じゃない、俺はこの目で見たいんだ! 今ある夜空の星で、爆発しそうなヤツ(恒星)はいないのか!
実はその候補と言われる恒星があるのです。それがオリオン座の『ベテルギウス』。「えっ? あの有名な星が?」と思う方もいるでしょう。冬の夜空に堂々と輝く一等星なのはもちろんのこと、歌の題名などにもなっていますしね。しかもオリオン座はその大きさと特徴的な配置から、そこまで星座などに詳しくない人でも知っていることが多い星座です。その並びの左上で煌々とオレンジ色に光っている星がベテルギウスです。
地球から約642光年離れたところにあるベテルギウス。そのベテルギウスが爆発するかも……と言われているのは、太陽の質量よりもはるかに大きく、しかも脈を打つように偏光していることからです。そして今から約10年前、以前の測定値より約15%も星が縮まっていることが観測され、その後“変形”していることも観測されたのです。これが実際に爆発の予兆を示すのかどうかはわかりませんが、かなり“アヤしい”結果だったのでしょうね。そして地球から見えているのは、642年前の光ですから、現地ではすでに跡形もなくなっている可能性だってあります。今から642年前というと……南北朝時代くらいですね。
ベテルギウスが仮に爆発したとすると、半月よりも明るいレベルで輝き、昼間でも3ヵ月程度白い点として見えるレベルになるそうです。その後、温度が下がるにつれ、青白い色からオレンジ色と変化していき、どんどん暗くなり、4年後にはついに見えなくなるそうです。この爆発後最初の数ヵ月がとてつもなく楽しそうですね……。音が聞こえたらさらに楽しいんでしょうけど。現地でも空気ないから聞こえなさそうです。
しかし、人間は一度も星の爆発の瞬間を見たことがないのでしょうか? 実は記録が残っています。今から約千年近く前のこと、西暦1054年のお話です。『明月記』と呼ばれる、藤原定家さんが書いた日記にその様子が記されているのですが、“午前2時頃に、おうし座付近に『客星』が現れた。大きさは『歳星』くらい。”と記されています。客星はふだん見慣れない星、という意味で、歳星は木星を意味します。つまり、木星くらいの明るさの星が現れたんですね。これは何気に空を見ていたらビビるレベルです。そして後世、研究によりこの記述が超新星の観測記録であり、おうし座のエリアで起こったことがわかったのですね。その時の超新星残骸が『かに星雲』で、今でも望遠鏡で見ることができます。
地球からの距離はおよそ7000光年とのことなので、紀元前6000年ころにはもう現地では爆発していたんですね。日本では縄文時代です。7000光年離れていてこの明るさですから、ベテルギウスはその約10分の1の距離、このかに星雲を生じた超新星爆発より派手な感じでの演出(明るさやその維持)が期待できそうですね!
さて、このベテルギウスの物理的性質を見ていきましょう。大きさはだいたい太陽の700〜1000倍ほど。収縮と膨張を繰り返し、その大きさは変化しています。
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