ASCII倶楽部

このページの本文へ

ASCIIネクストイノベーターズ「新型ラジオハードウェアHintの気配」 第3回

ハードウェアスタートアップによる”盛り過ぎ”なガジェット

Cerevoに聞く「いま、ラジオを作る意味」

2016年09月13日 09時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ニッポン放送・吉田尚記アナウンサー発案によるラジオ「Hint」を追いかける連載の3回目は、ハードウェアを担当するCerevoの方々に話を伺う。ご登場いただくのは、Cerevoの岩佐琢磨代表と、設計担当の柴田健士氏だ。

 Cerevoは日本のハードウェアスタートアップの雄として、変わったモノを作り続けている。その活躍ぶりは、ガジェット系に興味がある人ならご存知のことだろう。では、彼らが「ラジオ」というプロダクトにかかわることになったきっかけはなんだろう? そして、「普通のモノは作らない」ハードウェアスタートアップから見たラジオとは、どんなものなのだろうか?

会議の結論「ラジオは作れる」

 「作れるんだ……」

 最初のブレインストーミングを終えた時につぶやいた吉田アナの声を、岩佐代表には強く覚えているという。

Cerevoの岩佐琢磨代表取締役

 吉田アナと岩佐代表は、プライベートで長いつきあいがあった。年に数度会う中で、「なにか一緒にモノを作りたいね」と話すことはあったという。それがHintの開発に至ったのは、人と人との巡り合わせからだった。

岩佐代表(以下敬称略):その日はたまたま、グッドスマイルカンパニー(グッスマ)さんがいらしていたんですよ。特にこれを作ろう、という話ではなく、なんというか、「面白いことやってんじゃん、お互い」的な、ふわっとしたミーティングです。グッスマさんと我々は、いい意味では同じような業界ですけれど、「作っているモノ」という狭い意味では別の業界です。なので、それまでは接点がなかったんですよね。そこに弊社が「ドミネーター」を作ったことで、急接近しました。

Cerevoが手掛けた「ドミネーター」

 ドミネーターとは、2016年2月にCerevoが発売したハイテクトイ。TVアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』に登場する特殊な銃を、技術の粋を凝らし、音から動きまで完全再現したという、ちょっとどうかしているガジェットだ。それまでCerevoが作ってきたデジタル家電路線とは違うものであり、サブカルチャーの文脈に寄ったものだった。

 結果、アニメカルチャーという共通点が3者をうまく引き合わせ、突然の接点が生まれた。すでに吉田アナと「ラジオを作る」ことについて話し始めていたグッスマ・安藝貴範社長が、話をCerevoに持ちかけ、まずは関係者によるブレインストーミングを行うことになった。

岩佐:話をいろいろ聞いていくと、「ラジオを変えていきたい」ということでした。その時に吉田さんが言っていたのは「コンテンツとしてのラジオ」であり、そこに色々危機感をお持ちだったようです。もちろん、その分ポテンシャルもあったのですが。誰が言い出したかは思い出せないのですが、「この座組ならなにか面白いことができるはずだ」という話から、「じゃあ、ラジオ、作っちゃおうか?」みたいな感じになったんです。

 我々から見れば、この(取材を行っている)部屋のあらゆるものについて、「どうすれば商品として作れるか」が、なんとなくわかります。でも、モノづくりの業界にいないと、その辺はわかりません。そこの温度差はありました。「ラジオが作りたいなら、できます。Androidスマホくらいならいけますよ」というディスカッションをしていく中で、ラジオを作ることになっていったのです。

 吉田アナの「作れるんだ……」という発言は、このディスカッションの最後に出た言葉だった。

「ひとりじゃない感」のあるラジオとは

 とはいうものの、家電ベンチャーであるCerevoにとっても、「ラジオを作る」というのは意外なことだった。岩佐代表も「これまで、ラジオを作ることは考えたこともなかった」という。

岩佐:でも、社内で打ち合わせるうちに「これはやったほうがいいな」ということになりました。

 最近我々がよくやっているアプローチは、「インターネットが通っていないモノにネットを通す」「電気が通っていないモノに電気を通す」こと。家電でも、本当に「電気が通っているだけ」のようなトラディショナルなものに価値をつけよう、ということです。例えばフィリップスのHueは、電球にBluetoothを組み込んだだけですが、そこに発明があります。ドミネーターも同じ考え方です。

 ラジオは100年くらい基本的なアプローチが変わっていません。そこをうちのカラーでなにかできるんじゃないか、と考えたんです。

 開発は、「どのような機能を盛り込むか」を決めるところからスタートした。そこで出たものを、デザインを担当するメチクロ氏に依頼することになった。

岩佐:初期から、「ラジオは気配」という話をしていました。吉田さんいわく、生放送なのかそうでないかは、ラジオにとっては重要なんだそうです。この機械の向こうを通して人がつながっている……。吉田さんは、「人がいる感、ひとりじゃない感を出したい」ということを、言っていました。

 その「ひとりじゃない感」を出すため、技術側から提示されたのが、Hintで採用された無指向性スピーカーだ。無指向性スピーカーを採用することで、部屋全体に声が広がり、「ひとりじゃない」と感じられるようになる。

岩佐:一番紛糾したのは値段です。価格が3980円だったら、クラウドファンディングも1日でいきなり数百個、だったのでしょうが。これでも、僕たちとしては「盛りすぎ」なくらいなんです。この製品の原価には、従来はなかった電子部品のコストが効いています。

カテゴリートップへ

この連載の記事

週間ランキングTOP5

ASCII倶楽部会員によく見られてる記事はコレだ!

ASCII倶楽部の新着記事

会員専用動画の紹介も!