画像クレジット:Sarah Rogers/MIT Technology Review | Getty Images
摂食障害を約20年診てきた臨床心理学者は「こんなにひどい状況は見たことがない」と語る。世界では主な摂食障害が1990年からの33年で71%増えた。専門家は、GLP-1系減量薬の誤用がこの問題を悪化させている兆候を目にし始めている。
GLP-1系減量薬は、生物工学におけるこの10年で最大級のブレークスルーの1つだ。しかし一部の臨床心理学者は、この薬はより不穏なもの、すなわち摂食障害の引き金となる可能性があると指摘する。
新たな報告によると、神経性やせ症と神経性過食症の世界的な発生率は、1990年から2023年の間に実に71%も急増した。2023年の時点で、この2つの疾患のいずれかを抱える人は推定1810万人に上った。
さらに深刻なのは、他の摂食障害も考慮に入れると、この数字ははるかに高くなる可能性が高いということだ。そして不安なことに、この分野の専門家たちはすでに、GLP-1系減量薬がこの問題を悪化させている兆候を目にし始めている。
ケンタッキー州にあるルイビル大学の臨床心理学者であるチェリ・レビンソン教授は、約20年にわたり摂食障害を専門としてきた。レビンソン教授は、現在、これまでのキャリアの中で最も症状の重い患者を多く診ており、その多くがGLP-1薬を誤用していると言う。「こんなにひどい状況は見たことがありません」。
摂食障害とは、食行動が健康に影響を及ぼす精神疾患である。これには、体重増加への恐怖によって特徴づけられる神経性やせ症、過食と排出行動を繰り返す神経性過食症、過食性障害などが含まれる。
一部の人には特定の摂食障害に対する遺伝的素因があると考えられているが、その発症の引き金となるのは何らかの外的要因だとされている。それはストレスであったり、痩せていることを求める社会的圧力であったりする。レビンソン教授によれば、単に食事制限をするだけでも摂食障害の引き金になることが多いという。
摂食障害は、痩せて見られたいという圧力とともに、1990年代にはすでに蔓延していた(青白く痩せこけているのがもてはやされたヘロインシックの時代が思い浮かぶ)。それ以来、状況がどのように変化してきたかを明らかにするため、中国の南京医科大学附属小児病院のバイ・ルハイ医師らは、世界各地の人々を対象に実施された研究や調査からデータを集めた。データの欠落部分は、統計モデルを用いて補完した。
この研究により、研究者チームは1990年から2023年にかけて、204の国と地域それぞれにおける神経性やせ症と神経性過食症という2つの摂食障害の年間発生率を推定できた。さらに、障害調整生命年(DALY、1DALYは失われた健康な生存年数1年分を表す)を算出することで、これらの疾患が世界全体の健康に与える影響も推定した。
10月28日に『JAMAサイキアトリー(JAMA Psychiatry)』誌で発表されたこの研究結果は、不安を掻き立てるものだ。研究チームの調査によると、1990年から2023年にかけて、この2つの摂食障害の発生率は71%増加したという。これらの疾患は世界全体の健康にも甚大な影響を及ぼしている。2023年には、「世界全体で約383万年分の健康な生存年数に相当する損失をもたらした」とバイ医師は述べる。
バイ医師らは、これらの数字が今後も増加し続けると考えている。2023年には、神経性やせ症または神経性過食症のいずれかを抱える人は推定1810万人に上った。研究チームの予測では、2050年までにこの2つの疾患を抱える人は2180万人に達する可能性があるという。
状況はさらに悪い。バイ医師の研究には関与していないレビンソン教授によると、この2つの疾患は摂食障害全体の半分にも満たないという。これらの疾患の真の影響は、「おそらく報告されている割合の3倍に上るでしょう」とレビンソン教授は述べる。
バイ医師らは、この増加の理由については調査していない(ただしバイ医師は、人口増加だけでは完全には説明できないと指摘している)。では、なぜこのような状況に至ったのだろうか。
ソーシャルメディアが一役買っている可能性がある。「ソーシャルメディア上での比較、インフルエンサー、チャレンジ企画、ダイエットの流行はすべて、摂食障害の引き金となる出来事になり得ます」。この研究には関与していないノースカロライナ大学の臨床心理学者シンシア・ブリック教授は語る。ブリック教授は1980年代初頭から摂食障害の研究と治療に携わってきた。「1990年から2023年にかけて、明らかにこうした環境要因への曝露が急増しています」と同教授は言う。
多くのソーシャルメディア・ユーザーは、美容整形や極端なダイエットを経た可能性のある痩身のインフルエンサーによる、加工・修正された画像にさらされており、こうしたインフルエンサーは「シンスピレーション」や「フィットスピレーション」と呼ばれるコンテンツを発信している。しかし摂食障害を抱えるユーザーは、こうしたコンテンツに反応する傾向が強いようで、その結果としてさらに多くこうしたコンテンツにさらされることになる。
数年前、メルボルン大学の研究者たちがこの現象を調査したところ、摂食障害を抱えるTikTok(ティックトック)ユーザーのアルゴリズムは、摂食障害を抱えていないユーザーに比べて、「有害な摂食障害動画」をおよそ43倍も多く配信していることが分かった。ダイエットや運動に焦点を当てたコンテンツも多く表示されていた。多くのユーザーは、月に1000本以上の問題のある動画を受け取っていた。ブリック教授は、摂食障害を抱える人やそのリスクがある人にとって、ソーシャルメディアは「流砂」のようなものだと表現している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行と、それに伴うロックダウンによる社会的孤立も、摂食障害の増加に寄与したとみられる。2021年に実施された研究では、米国で摂食障害により入院した人の数が、2018年から2020年にかけて2倍になったことが明らかになった。
2023年以降、摂食障害の傾向がどのように推移してきたかについては、研究者たちはまだ十分なデータを持っていない。しかし、体験談レベルでは、状況はさらに悪化しているようだ。「摂食障害の数は増え、より重症化しており、発症年齢も早まっています」とレビンソン教授は語る。「8歳や9歳の子どもにも摂食障害が見られるようになっています」。
「私が見聞きしている限りでは、その数字が少なくとも再び倍増していたとしても驚きません」と同教授は付け加える。
レビンソン教授が特に懸念しているのは、近年人気が爆発的に高まっているGLP-1系減量薬の影響だ。2026年に入って実施されたギャラップ(Gallup)の調査によると、米国人の15%が減量のためにこうした薬剤のいずれかを使用した経験があるという。そしてこれらの薬剤は、ますます入手しやすくなっている。製薬会社は、より服用しやすく効果の高い新しい製剤の開発を進めており、多くの人が調合薬局(日本版注:患者に合わせて薬をオーダーメイドで調合してくれる専門薬局)や怪しいネット上の情報源からこれらの薬剤の類似品を購入できるようになっている。
2026年に発表された小規模な研究で、レビンソン教授らは、摂食障害を抱える人の30%がGLP-1薬を使用した経験があることを発見した。こうした薬剤は、そのうちの一部の人には恩恵をもたらす可能性がある。しかし10%は薬剤を誤用しているとみられた。そしてレビンソン教授は、この数字も過小評価だと考えている。
レビンソン教授らは、医学的な理由でGLP-1薬を処方された後に摂食障害を発症した子どもたちを目にしてきたと言う。また、11歳という幼い子どもでさえも、TikTok上でこうした薬剤の類似品を購入している例を目にしてきたとのことだ。
「GLP-1薬が神経性やせ症の患者においてさらに急速かつ極端な体重減少を引き起こしています。患者が、より進行した、回復が困難な段階になってから私たちのもとを訪れるようになるのではないかと、大変懸念しています」とブリック教授は語る。
ブリック教授とレビンソン教授はともに、これらの薬剤が摂食障害に及ぼす影響について研究を続けている。その一方で、両者とも医療従事者に対し、GLP-1薬が摂食障害を抱える人々にもたらしうるリスクを考慮するよう呼びかけている。ブリック教授は9月に発表された一連の研究・臨床ガイドラインの作成に貢献したが、このガイドラインは例えば、医師が薬剤を処方する前に摂食障害のスクリーニングを実施することを推奨している。このガイドラインでは、患者への教育の充実や、GLP-1薬を服用する人々に対するより厳格なモニタリングも推奨されている。
もしあなた自身、または身近な人が摂食障害を抱えている可能性があると思われる場合は、全米摂食障害協会で情報を見つけることができる(日本版注:日本では、摂食障害全国支援センターの「相談ほっとライン」などの窓口がある)。
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