画像クレジット:Sarah Rogers/MIT Technology Review | Getty Images
Webはこれまで、主に人間が使うものとして設計されてきた。だが、予約や価格交渉を代行するAIエージェントが普及し始め、Webはエージェントに合わせて作り替えられていく可能性がある。取り残された人間にとって、Webは使いづらい場所になりかねない。
つい最近まで、インターネットの利用者は「ボット」と「人間」の2種類に分けることができた。Webサイトは以前から、ボットがWebページのコンテンツを収集するなどの自動化された作業を実行することを認めてきた。ただし、ボットがアクセスできる対象や振る舞いにはルールが設けられている。結局のところ、Webは主に人間のために設計されているのだ。自分がボットではないと証明するために、ときどきパズルやCAPTCHA(キャプチャ)認証を解かなければならないとしても、それは変わらない。
しかし、この構図は、航空券やホテルの予約などをオンラインで代行してくれる個人向けAIエージェントの登場によって、根本から覆されつつある。オープンAI(OpenAI)の「Dots(ドッツ)」やメタ(Meta)の「Muse(ミューズ)」といったアプリが登場し、AIエージェントは一気に普及し始めた。Museはリリースから最初の1カ月で500万回ダウンロードされ、AIエージェントによるWebへのアクセスも、8月から9月にかけて3倍に増加した。
主に人間の利用を優先するよう設計されてきたインターネットでは、こうしたエージェントと人間の利用者が混在することで、問題が生じている。多くのWebサイトが、価格交渉や旅行の計画を代行させようと消費者が送り込んだAIエージェントをブロックしているのだ。それでも、エージェントへの需要が高まり続ければ、インターネットは次第に私たち人間ではなく、エージェントに合わせて再設計されていくだろう。
こうした変化が起きようとしているのは、エージェントがWebの利用者として、実質的に第3のカテゴリーを形成しているからだ。エージェントはもちろん人間ではなく、機械ならではの速度でインターネットを利用する。しかし、従来のボットとも少し違う。個々の人間に代わって、正当で有益な仕事をこなすこともできるからだ。人間よりもずっと速く作業を進められるというだけなのである。
エージェントは、人間とボットを区別するために作られた既存の仕組みには当てはまらない。そのため、一部のプラットフォーム、特にセキュリティを重視するプラットフォームは、エージェントを全面的に締め出すことを選んでいる。テッククランチ(TechCrunch)は最近、ピザハット(Pizza Hut)や、AIによるレストラン予約を認めていないイェルプ(Yelp)など、さまざまなWebサイトでエージェントを利用しようとしてもうまくいかない事例を報じた。アマゾン(Amazon)はMuseのエージェントをブロックしたほか、AIスタートアップのパープレキシティ(Perplexity)のエージェントも締め出そうと、法廷で争っている。裁判所は最近パープレキシティ側に有利な判断を示したが、アマゾンは控訴した。同社は、AIエージェントの存在によって、人間が見た広告とボットに配信された広告を区別することが難しくなり、自社の広告事業が脅かされると主張している。
こうしたブロックは、いち早くエージェントを使い始めた人々にとっては厄介なものだ。しかし、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの准教授イーサン・モリックは、やがてWeb全体に影響が及ぶと予測している。例えば、AIエージェントに返金要求や価格交渉を代行させられることが広く知られるようになれば、カスタマーサービス部門にエージェントからの問い合わせが殺到し、人間が利用できなくなるほどになるだろう。「いずれ人々は、こうしたことを自分のエージェントに代行させられないとなれば、ひどくいら立つようになるでしょう」と、モリックは最近、リンクトイン(LinkedIn)に投稿した。
個人向けAIエージェントへの需要が高まれば、プラットフォーム側も受け入れる方法を見いだすだろう。エージェントによるWebアクセスの大部分がeコマースサイトに向けられていることを考えれば、なおさらだ。実際の人間に代わって買い物をする大量のAIエージェントを受け入れることは、プラットフォーム側にとって新たな収益機会となる。実際、eコマース大手のショッピファイ(Shopify)は、人間向けに設計されたWebページを経由せずに決済できる専用の仕組みを提供することで、すでにエージェントを受け入れ始めている。
差し迫った問題は、こうした変化の中で、私たち人間にとってのインターネットがどうなるかということだ。私たちはこれまで、企業が利用者の注意を引きつけ、利用することをますます重視するようになっても、少なくとも人間が主な利用者として想定されているWebに慣れ親しんできた。しかし、そのWebが、いずれ人間を数で上回るエージェントのために最適化されたものに取って代わられるかもしれない。そうなれば、取り残された人間にとって、インターネットはさらに使いづらい場所になりかねない。
具体的には、どのようなことが起こるのだろうか。例えば、Webサイトは人間が直接訪れる場所として、次第に重視されなくなるかもしれない。自分で商品を探して比較したい人は、今よりも使いにくいインターフェースに直面することになる。人間かどうかを確認する仕組みも完璧ではない。自分がエージェントではなく人間であることを、何度も繰り返し証明するよう求められる状況を想像してほしい(そのために虹彩をスキャンしなければならなくなるかもしれない)。欲しいセーターの価格は、誰にでも同じ金額が表示されるのではなく、利用者のエージェントごとに異なる金額が提示されるようになるかもしれない。さらに、自分のエージェントが勧める商品が、広告やプラットフォームへの手数料によってどの程度左右されているのか、見分けられなくなる。
これは、グーグル(Google)、アンソロピック(Anthropic)、オープンAIが約束する未来とは大きく異なる。各社が描いているのは、AIエージェントによって消費者がより大きな力と交渉力を手にする未来だ。とはいえ、その約束が非現実的というわけではない。例えば、エージェントは不当な医療費請求に異議を申し立てたり、より安い自動車保険を探したりすることで、実際に人々の役に立つ可能性がある。
しかし、そうした目的のために実際にエージェントを利用できるかどうかは、エージェントがWebサイトとどのようにやり取りし、具体的に何をすることが許されるのかを定めるルール次第だ。
こうしたルールは、今まさに作られているところだ。その一部は、私たち全員にとって利益になるだろう。例えば、消費者も企業も、エージェントがWeb上のあちこちでクレジットカード情報をむやみに扱うことは望んでいない。エージェントの安全性を高めるルールは歓迎すべきものだ。むしろ重要なのは、企業が自社のWebサイトからエージェントを締め出せるかどうか、あるいは消費者のためにより有利な取引条件を交渉することをエージェントに禁じられるかどうかといった、意見の分かれる問題である。こうしたルールこそが、Webを、私たちの利益のために働くエージェントが行き交う幹線道路にするのか、それとも私たちに不利益をもたらすエージェントが行き交う幹線道路にするのかを左右するだろう。
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