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ボタンを押すだけで新薬ができたら、特許は誰のものか?

2026年08月25日 06時16分更新

文● Antonio Regalado

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Stephanie Arnett/MIT Technology Review | rawpixel

画像クレジット:Stephanie Arnett/MIT Technology Review | rawpixel

米国の特許庁は今、AIを電卓と同じ「単なるツール」と見なしている。人間が使う道具にすぎない以上、発明者は人間だ、というわけだ。だが、AIが人間の介入なしに発明する日は近づいている。そのとき、ボタンを押しただけの人間を発明者と呼べるのか。

バイオテック企業のインシリコ・メディシン(Insilico Medicine)が、コンピューターモデルを用いて肺線維症に有望な薬剤を提案した際、同社はプレスリリースの中で、その分子が自社の生成AIプラットフォームによって「発見された」と熱心に主張した。

インシリコは、人間では思いつかないような薬剤のアイデアを人工知能(AI)で素早く生み出す企業群の先頭を走っており、新たな治療薬開発の競争を加速させる可能性を秘めている。AIモデルは今や、ChatGPT(チャットGPT)がお礼状を書くのと同じくらい簡単に、薬剤の原子レベルの設計を生成できるようになっている。

しかし、その新しい化学構造を保護するための重要な特許を申請する段階になると、同社はAIについて一切言及しなかった。代わりに、特許にはCEO(最高経営責任者)のアレックス・ジャボロンコフを含む5人の人間が薬剤の「発明者」として記載されている。

この食い違いは、知的財産法における興味深い矛盾を浮き彫りにしている。発見においてAIがどれほど根本的な役割を果たしていても、発明の権利を得るという点では、人間だけがその功績を主張できるのだ。

この結論に米国の裁判所が至ったのは、ロサンゼルスの法律事務所であるブラウン、ネリ、スミス&カーンのパートナーであるライアン・アボットが、「DABUS(ダバス)」と呼ばれるAIを、より優れた食品容器の発明者として指名する無償のテストケースを提起したことがきっかけだった。その容器は、複雑な幾何学的表面によって熱伝導性が高く、積み重ねも容易な設計となっていた。人間は設計に一切関与していないとして、アボットはAIを発明者として記載すべきだと主張した。

この訴訟は、AIに法的権利が認められるべきかどうか、あるいはより優れたネズミ捕りを生み出す「ひらめきの瞬間」の本質とは何かといった哲学的な問いを提起するものだったかもしれない。しかし2022年、ワシントンD.C.の控訴裁判所は、こうした「形而上学的な問題」は本質とは無関係だと述べた。その代わりに、米国の法律では発明者を「個人(individual)」と定義しており、その平易な意味は人間であるということを裁判所は指摘した

機械は人間ではないため、発明者にはなれない。以上で結論は出た。

「人間の発明者がいなければ、発明も特許も存在しません」と語るのは、現在アルファベット(Alphabet)のスピンアウト企業でAIによる治療薬開発に大きな野望を持つアイソモーフィック・ラボズ(Isomorphic Labs)の最高事業責任者兼法務責任者を務める特許弁護士のサラ・コーマンだ。コーマンは2025年に、MITテクノロジーレビュー主催のイベント「EmTech(エムテック)」での発言の中で、AIに対応するために法律が進化する必要があることは「疑いの余地がない」と付け加えた。

その理由の一つは、AIが物事を発明できるという事実を誰も否定していないからだ。将来、AIはますます人間の介入なしに発明をするようになるかもしれない。米国特許商標庁自身も認めているように、「AIシステムは、他のツールと同様に、人間が実行すれば法律上の発明者資格を構成しうる行為を実行できる」のだ。

むしろ、今後の核心的な問いは、発明者として記載されるに足るだけの貢献を人間が果たしたかどうかという点になるかもしれない。アボットは、特許を無効にする方法の一つが誤った発明者の記載を示すことであるため、AIが生成した薬剤に対して法的異議申し立てが起こりうると考えている。

アボットが懸念するのは、米国の政策がAI生成の成果物を保護の対象から除外すれば、将来の創薬開発に水を差しかねないという点だ。すでに米国著作権局はAIが生成した画像やテキストへの著作権付与を拒否しており、これらのツールを活用している全米映画協会などの団体から懸念の声が上がっている。

知的財産法の目的はイノベーションを促進することだ、とアボットは言う。それは米国憲法第1条に明記されており、「科学と有用な技芸の進歩を促進する」ために、発明者や著者には一定期間、自らのアイデアに対する独占的権利が与えられなければならないと定めている。

現在、米国特許庁はAIの利用に対して「聞かず、言わず」のアプローチを取っているようだ。バイデン政権下では、AI発見の共同発明者として人間が真に資格を持つかどうかを判断するためのガイダンスが公表された。しかしトランプ政権の発足後、方針は転換された。現在、特許庁はAIを電卓のような単なるツールと位置づけており、言及する必要すらないとしている。

先駆的なAI創薬企業が、少なくとも現時点では人間をプロセスに関与させ、すべてを慎重に記録していることは間違いない。ジャボロンコフCEOによれば、インシリコでは人間の化学者が依然として薬剤の合成、変異体の作成、動物実験を担っているという。「特許に名前が記載されるのはその人物です。たとえこのプロセスを実験も含めて完全にロボット化したとしても、誰かがボタンを押し、予算を承認するでしょう」。

ボタンを押すことが発明者の資格として認められるべきか。アボットは、それは将来の法的事例が答えを出すべき問いだと言う。「もし私がClaude(クロード)にがんの治療を依頼し、それが実現したとしたらどうでしょう?」と彼は言う。「私がそれを発明したと主張するのは不適切だと思います」。

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