SORACOMとAWSで構築した「Q-monitor」で運輸業務を省力化
JR九州が内製で挑む“車両保全”のDX 少人数運用×軽資格化の先にみるAI・CBMの未来
デジタル化と親和性が高い現場作業のひとつが「点検業務」だ。IoTを活用した遠隔・自動測定によって、現地訪問の工数を減らしながらデータ化を進められる。そして、そのデータ化の先にあるのが、状態監視保全(CBM:Condition Based Maintenance)やAI活用である。
2026年7月7日に開催されたソラコムのIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2026」では、車両の点検業務(車両保全)のデジタル化に内製で取り組むJR九州の松原大知氏が登壇。CBMやAI活用への展望まで語られたセッションの様子をお届けする。
コスト圧縮&少人数運用のために内製開発したWebアプリ
JR九州がDXを進める背景には、少子高齢化に伴う、社員の確保難がある。同社が目指すのが、少人数で維持可能な鉄道管理体制の早期構築だ。松原氏は、「加えて、デジタルの力で誰もが業務を遂行できる“軽資格化”へ転換していく必要がある」と語る。
こうした方針のもとで同社は、個別業務の最適化をはじめ、システムやローコード開発環境の整備、それらを推進する人材・組織づくりに注力してきた。松原氏の所属する運輸部門でも、「運転」「車両」「輸送」の各セクションでDXに取り組んでおり、今回はその中の「車両保全のデジタル化」に焦点が当てられた。
同部門では、2024年から一部の車種・検査において車両センサーによる常時モニタリングを開始し、省力化に着手した。しかし、対応する車両が限られる上、オーバーホール(整備)した車両では取得できるデータ量が少なく、その時点では投資効果が薄かった。そこでコストを圧縮するべく、このIoT化の仕組み自体を内製化する方向へ舵を切った。
そこで開発されたのが、運輸関係総合情報Webアプリ「Q-monitor」だ。車両を中心に運輸関連のデータを集約。車両業務の効率化だけではなく、運転業務の支援や顧客サービスの向上までを見据えた基盤になっている。
システムはAWS上で構築され、車両に後付けされたIoT機器からクラウドへデータ転送する仕組みを採用した。通信回線にはSORACOMを利用し、IoT機器からのバイナリデータを「SORACOM Funk」で直接AWS Lambdaに渡すことで、データ転送量を削減している。「SORACOM Funkは、Lambdaとシームレスに連携できる点に加え、サービス全体のコストがリーズナブルなのが魅力的」(松原氏)
クラウド上のデータ処理は、負荷の大きさに応じてAWS LambdaとAmazon ECSを使い分ける構成だ。Webアプリケーションは、社内でPythonが定着していることからStreamlitで構築。さらに、社内の他システムとも連携し、計画系データや運行管理系データも取り込んで、運輸業務全体を横断的に支援する基盤を実現している。
こうしたQ-monitorは、インフラ担当の1名と松原氏含めたフロントエンド担当の2名のわずか3名が運用を担う。サーバーレスな構成でインフラ管理の負荷を抑えつつ、少人数でも継続的な改善が可能な体制を確立している。
データ蓄積の先にある“AI活用”と“CBM(状態監視保全)”
このQ-monitorには、車両保全を支援する3つの主要機能が備わっている。メインとなるのは「車両状態のモニタリング」だ。予め設定した条件から逸脱した異常データを表示するとともに、その検査実績を一元管理できる。
2つ目は、センサーデータを時系列でグラフ化する「データ可視化」機能だ。同機能によって、従来はCSVを取り込んで作成していた報告書が、一瞬で生成されるようになったという。3つ目は「故障検知」機能だ。車両側の故障検知を準リアルタイムで表示するもので、保守担当者の計画策定や故障傾向の分析に寄与している。
運輸関連全般のデータも統合することで、車両保全以外でのデータ活用も進んでいる。例えば、列車遅延のボトルネックを特定してダイヤの改正作業を効率化する取り組みや、センサーからの重量データから乗車率を算出する試みも始まっているという。
ここまでの省力化に加え、軽資格化においては、車両検査を支援するAIエージェントも検証中だ。OJTが必要な検査業務において、新人でもベテランに匹敵するようなパフォーマンスを発揮できるよう、Amazon Bedrock AgentCoreでエージェントを構築している。
このエージェントは、故障発生をトリガーとして動作する。Amazon Aurora Serverless v2に保存した検査判定や故障履歴などの各種データ、Amazon Bedrock Knowledge Basesで接続した各種マニュアルを横断的に検索して、対象の状態把握だけではなく具体的な検査手順まで示してくれる。現在は実運用に向け、ユーザーが必要な情報のみが出力されるようチューニングを重ねている。
こうして将来の人手不足を見据え、車両・輸送セクションでの業務効率化を進める同社だが、今後は運転セクション向けの機能も実装していく方針だ。松原氏は、「コスト圧縮のために内製化を推進してきたが、我々が離れても維持できる体制を築いていきたい。加えて今後は、蓄積したデータを有効活用してCBMにシフトするフェーズに入る」と語った。
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