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シンガポールのR&D拠点が開発、1000棟以上のビル外壁検査で「生産性7~10倍」実現の実績も

建設・製造の視覚検査AI導入を加速、パナソニックHDが新プラットフォーム

2026年03月27日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2026年3月13日、傘下のパナソニックR&Dセンターシンガポール(PRDCSG)が開発した「視覚検査向けAIプラットフォーム」の外部ライセンス提供を開始した。建設・インフラ、製造など幅広い領域において、視覚検査AIソリューションの開発を一気通貫で支援する基盤となる。

 パナソニックHDではこれを第一弾として、同センター発の技術やソリューションをグローバルにライセンス提供していく方針だ。

外部へのライセンス提供を開始した「視覚検査向けAIプラットフォーム」の概要

パナソニックR&Dセンターシンガポール(PRDCSG) 所長の安藤健氏

視覚検査ソリューションの迅速な商用化をうながすプラットフォーム

 PRDCSGは、1990年の設立以来、デジタルテレビの画像処理をはじめとして、パナソニックグループにおけるAV信号処理技術の研究開発を牽引してきた。とくにこの数年は、アルゴリズム開発からシステム実装までを担う拠点として、家電やプロ向けAV機器、顔認証、ロボティクス、スマートシティなど、幅広い事業領域にわたって、AIをコアとした技術開発を推進している。

 同センター 所長の安藤健氏は、シンガポールには高度なエコシステム、国立大学(NUS)などの先進的大学との連携、デジタル人材やAI人材の採用、政府の手厚い支援といった強みがあり、そこで生まれた技術を日本の支社や事業会社にフィードバックすることで、グループの成長に貢献してきたと述べる。

PRDCSGが研究開発対象とする技術領域

 今回ライセンス提供を開始する視覚検査向けAIプラットフォームは、PRDCSGが蓄積してきたAI技術や運用知見を基盤として、データ収集やモデル学習から、検証、運用、監視までのAI活用プロセスを一気通貫で支援する。これにより、個別開発の検証や運用で生じる負担を抑えつつ、PoCから商用展開までを迅速に後押しするという。

 「フィジカルAIの実現には一定のカスタマイズが必要であり、想定以上にコストがかかったり、スケールアップが難しかったり、セキュリティに懸念が生じたりといった課題が発生しやすい。今回のAIプラットフォームを用いることで、建設・社会インフラ、製造、スマートシティなどで求められる視覚検査において、ワンストップでAIソリューションを提供できる」(安藤氏)

AIプラットフォームを提供することで、コストダウンや継続学習による強化、スケーラビリティ、セキュリティなどを容易に実現できるようにする

 同プラットフォームは、PRDCSGの画像認識技術をベースに2022年度から開発がスタートし、2023年度後半から展開してきた実証実験の結果をもとに製品化を行い、今回のライセンス販売に至った。

 ライセンスを受けたパートナーは、PRDCSGと協業し、監視カメラやドローン(UAV)、移動ロボットなどから静止画/動画データを収集し、AI分析するソリューションを開発できる。たとえば建設・インフラ分野の点検や工事品質検査、工場やプラントにおける安全管理、生産ラインの品質検査など、自動化が望まれる幅広い業務への適用が可能だ。

 そのほかにも同プラットフォームは、モジュール設計によるカスタマイズの容易さ、スマートフォンやPCなど多様なデバイスへの対応、クラウドだけでなくオンプレミスにも対応する拡張性といった特徴を備える。加えて、検査データのプライバシー保護とトレーサビリティ確保を目的として、ブロックチェーン技術も活用している。

シンガポールの採用事例では建物1000棟以上の外壁検査を実施、7~10倍の生産性向上

 シンガポールのドローンサービスプロバイダー、NovaPeakでは、すでに同プラットフォームを活用した外壁点検ソリューション「LiveInspect.AI」を提供している。ドローンで撮影した数千枚の画像を同プラットフォームにアップロードし、AI分析を行うことで、外壁のひび割れなどの欠陥をAIが特定し、その危険度も判定する。これまでシンガポール国内で、建物1000棟以上(公営住宅400棟、学校300棟、商業ビル100棟、産業施設など100棟)の検査実績があるという。

NovaPeakの外壁点検ソリューション「LiveInspect.AI」で採用されている

 シンガポール政府では、築年数が経過した3万棟以上の建物に対して、7年に一度の定期外壁検査を義務化している。この検査ではドローン活用が推奨されているものの、建築構造が複雑なため誤検出率が高まる、学習ワークフローが未整備のためモデル性能が向上しないといった課題が生じていたという。

 「パナソニックの技術は、データの前処理に強く、追加学習でも効果を発揮するため、シンガポールの厳しい基準を大きく超えるAI性能を発揮している。その結果、LiveInspect.AIでは1週間かかっていた作業が1日で終わるなど、点検業務の生産性を7~10倍に高めることができている」(安藤氏)

シンガポールでは3万棟以上の建物で定期外壁検査が義務づけられているが、ドローン撮影によるAI分析には課題も多くあった

 シンガポールのビル外壁検査市場は年間100億円規模、グローバルの同市場は年間1500円規模が見込まれるという。今後は、両社が協業するかたちでLiveInspect.AIのグローバル展開を進める。

 安藤氏は、規制の厳しいシンガポールにおける実績を強みとして、同様に厳しいルールのある地域、監査や説明責任のためのデータ管理とレポート作成が必要な提案を進めていくと述べ、日本や米国、香港も重要な市場ととらえていると話した。

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