普段生活していて、「木」を意識する機会はそれほど多くないかもしれない。都市部で暮らしていると尚更だ。
だがよく見回してみると、私たちの生活は案外、木に支えられている。建材として、家具の材料として、日用品の素材として、ときに紙として──木は、とても身近なのにあまり意識しない存在かもしれない。
本稿では、住友林業 筑波研究所へのインタビューを通じて教えてもらった、木にまつわる興味深い話をいくつか紹介する。木の奥深さや偉大さに、改めて目を向けてみよう。
江戸時代にまでさかのぼる、住友林業の歴史
日本には、環境と人間の関係に、長いあいだ向き合ってきた企業がある。皆さんご存知、住友林業だ。
同社の起源は、1691年(元禄4年)にまで遡る。当時、住友の別子銅山(現在の愛媛県新居浜市)の開坑にともない、銅の製錬や坑道を支える木材を安定して確保し、供給する必要が生じた。
そこで始まったのが「銅山備林」と呼ばれる森林経営である。
この銅山は明治期にかけて、凄まじい勢いで発展した。しかし、発展と引き換えに、山は荒れてしまった。過剰な伐採と製錬時に発生するガスによる煙害は、環境への負荷が大きすぎたのだ。
そこで当時の経営陣は、環境を立て直すことを画策した。煙害を抑える技術革新と並行して「大造林計画」を策定し、多い年には年間200万本以上の苗木を植林。荒廃した山を再生していったのである。
短期的な合理性よりも、長期的な環境の回復を選んだ結果、別子の山は再び緑を取り戻した。そして、住友林業も日本を代表する企業であり続けている。
同社の国内森林保有面積は、現在国内民間企業の中で第3位。北海道、本州、四国、九州での総面積はおよそ4万8000ヘクタールで、これは国土のおよそ800分の1に相当する広さだ。
「木の力」は「人の心」に作用するのか?
木の価値は、「人に与える影響」という面でも注目され始めている。
同社の筑波研究所が最近、東京慈恵会医科大学、脳機能解析を手がけるスタートアップ企業・BrainEnergyと共同で、木材を用いた診療空間がうつ病治療に与える影響を調査した。「木の心理療法室」と一般的な診療室を用意し、患者が双方の差をどう感じたかという調査である。
結果は、木質系内装材を使った診療室の方が、香りに対して好印象を持つ患者が多いというものだった。
オフィス空間においても、同様の効果が見られたようだ。
筑波研究所では、老朽化した本館に代わり、2019年に木造3階建ての新研究棟を建設した。柱や梁をあえて露出させ、観葉植物を配置し、執務者の視界に常に木や緑が入る設計を取り入れた。
移転前後で社員アンケートを行ったところ、知的生産性の自己評価は大きく向上していたという。仕事に対する活力や没頭度を示すワークエンゲージメントも、「活力」「没頭」の項目では特に顕著な改善が見られた。
これらの結果だけで、「木が健康にいい」「木には人をサポートする効果がある」と断言することは難しい。しかし、人の意思が、環境から大きく影響を受ける可能性は示唆されたと言えるだろう。
考えてみれば、「都市」を作り、生活圏を都市に集中させるようになる前、人間は自然の中の生きていた。自然を構成する大きな要素である「木」が、何らか、私たちに好ましい影響を持っていたとしても、それほど不思議ではないはずだ。












