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プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点

スタートアップに求められるもの エコシステムの更新が生み出す次への挑戦

2026年03月04日 17時00分更新

文● ASCII

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世界のスタートアップと、日本のスタートアップの現状

 藤本氏が世界を巡って見えてきたのは、国ごとにエコシステムの形は異なるものの、「なぜそれをやっているのか」という目的が明確である国ほど、エコシステムが機能しているという事実だった。多くの国では、スタートアップ政策は産業振興や雇用創出と強く結びついている。特に経済規模が小さい国ほど、自国市場だけで完結する発想を最初から持っておらず、スタートアップが生まれた時点で、海外展開やグローバル市場を前提に設計されており、政策そのものも「外に出ること」を前提に組み立てられている。

海外では次の型へと進化しているエコシステム

 フランスやドイツでは、国家戦略としてスタートアップエコシステムを位置づけ、長期的な投資を行っている。フランスでは2015年前後から国を挙げてスタートアップ支援を本格化させ、その結果として、急成長する企業が次々と生まれてきている。ドイツでは、もともと強みのある産業分野を起点に、地域ごとに異なるエコシステムを形成しており、産業構造とスタートアップが密接に結びついている。

 また、韓国では若い世代の起業が非常に活発で、スピード感のある挑戦が目立つ。失敗を過度に恐れず、次のチャレンジにつなげる文化があり、結果として新しい事業が次々と生まれている。ジョージアのような比較的小さな国でも、スタートアップだけに注力するのではなく、中小企業や個人事業主を含めた広い意味での起業を促進し、経済全体の循環を良くすることを目的にしている。

 こうした各国の事例で藤本氏が強く感じたのは、「スタートアップエコシステムは、国の状況や課題に応じて設計されている」という点だ。どの国もシリコンバレーを再現しようとしているわけではなく、自国の産業構造、人口規模、経済環境を踏まえた形でエコシステムを組み立てている。

各国のスタートアップ政策

 その一方で日本でもスタートアップ支援やエコシステム形成が進められているが、多くの地域で「東京の縮小版」や「シリコンバレーの模倣」を目指してしまっているケースが少なくない。結果として、その地域ならではの強みや産業と結びつかないまま、形だけの施策に終わってしまうことがある。

 日本は国内市場が比較的大きいため、国内に閉じたスタートアップが生まれやすい。結果、成長スピードが緩やかになり、グローバルな競争環境の中で存在感を示しにくくなる。これはスタートアップの能力の問題ではなく構造の問題であり、技術力や人材の質は高いにもかかわらず、それをグローバルに接続する仕組みが弱い。日本に必要なのは、他国の成功事例をそのまま輸入することではなく、自国の強みと課題を正しく認識した上で、それに合ったエコシステムの形を設計し直すことだ藤本氏は言う。

 スタートアップエコシステムの成否を分けるのは「数」や「流行」ではなく、「目的」と「接続の仕方」であり、海外と比較して、日本の状況を遅れと見るか、これから設計できる余地があると見るかという視点の違いこそが、今後の日本のスタートアップエコシステムの方向性を左右する重要な分岐点になるわけだ。

エコシステムが更新され続ける限り、新しい挑戦は生まれ続ける

 スタートアップエコシステムは完成形のある仕組みではなく、常に更新され続けるものだ。エコシステムは生態系であり、成長する要素もあれば、役割を終える要素もある。変化に耐えうる循環を持ち続けることが重要だ。求められるのは、単にスタートアップの数を増やすことではなく持続性だ。生まれたスタートアップが成長し、次の段階へ進み、そこで得られた経験や人材が再びエコシステムに戻ってくる循環が必要で、一度きりの挑戦で終わらず、失敗を糧に次の挑戦へとつながっていく存在であるべきだと藤本氏は述べている。

エグジット方法によって成長曲線が異なるスタートアップ

 こうした循環と成長を支えるためにスタートアップエコシステム協会は、特定の企業や分野に偏らない形でエコシステムを広げていくことを目的としている。スタートアップだけでなく、大学、企業、投資家、支援者といった多様なプレイヤーがそれぞれの役割を果たせる環境を整えることが協会の役割だ。そして、協会は正解を提示するのではなく、知見が循環する場をつくることを重視している。

 藤本氏は、スタートアップエコシステムの未来は、一部の成功者によって支えられるものではなく、多くの挑戦と失敗が積み重なることで形づくられるものだと語る。エコシステムが更新され続ける限り、新しい挑戦は生まれ続ける。その状態をいかに維持し、次の世代へとつなげていくか。この重要なテーマを提示して藤本氏の講演は終了した。

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