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速さと抑揚で印象は変わるが、「説明できない部分」も見えてきた

たくろう/ドンデコルテ/エバースのM-1決勝ネタをAIが分析 “ウケる話し方”は数値化できる?

2026年01月06日 17時00分更新

文● モーダル小嶋/ASCII

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漫才という“人間的表現”をAIで分析する

 「話し方」は才能や感覚の問題だと思われがちだ。テンポがいい、間がうまい、声に説得力がある……。そうした要素は経験の積み重ねで磨かれるものであり、数値で測れるものではないと考える人も多いだろう。

 それでは、「漫才」という極めて人間的で即興性の高い表現を、データとして分析すると何が見えてくるのか。

 話し方トレーニングサービス「kaeka」を運営するカエカは2025年12月25日、「M-1グランプリ2025」の決勝進出者を対象にした、AIを活用した話し方分析を発表している。

 今回の取り組みでは、同社が提供するAI話し方分析ツール「kaeka score」の技術を用いている。優勝コンビ「たくろう」をはじめ、決勝に進出した「ドンデコルテ」「エバース」など、複数組の話し方の特徴を解析したという。

 分析結果からは、話速の違いや声の抑揚の使い方が各コンビごとに異なることが示され、それが漫才の構成や印象にも影響していることが明らかになったという。

たくろう:“4秒の間”が人物像を強調

 優勝したたくろうの場合、カエカによれば、1stステージで一番ウケた箇所は赤木裕さんの「トヨタ〜、自動車〜!」というセリフの部分だ。ここには、“長めの4秒の間”と“声の高低変化”が検出されている。これらが「状況を把握できていない人物像」を強調し、ネタの構造と強く噛み合っていたことがわかるとする。

ドンデコルテ:声量の変化で空気を切り替える

 準優勝のドンデコルテの場合、最終決戦のネタでは低い声を軸にしつつ、ボケの渡辺銀次さんが声量を変えることで、場の空気を一気に変えているという。これにより、理論的に説明していた渡辺さんのキャラクターが豹変したような効果が生まれている。

エバース:同じトーンでも伝わる感情の起伏

 1stステージで最高得点を叩き出したエバースは、2人の声のトーンは同じだが、実際は両者とも2オクターブ分の声の高低に振り幅があるという。そのため、セリフに応じて感情の起伏が伝わりやすいと分析されている。

漫才分析から見える伝え方のヒント

 カエカによれば、M-1グランプリ決勝ネタの分析を通して、コミュニケーションにおいて人の印象を大きく左右しているのが「何を話すか」と「どのように話すか」の組み合わせであることが見えてきたという。

 話すスピードを変えることで相手を自分のペースに引き込んだり、声の高低の抑揚をつけることで感情や温度感を伝えやすくなったりするほか、あえて「間」を取ることにより、次の言葉への期待感を生み出せるとする。

決勝に進出した10組の「コンビ別話速比較」。早口で伝えると自分たちのペースに巻き込みやすく、ゆっくり話すとマイペースかつ堂々とした印象になるという。なお、ヨネダ2000は歌ネタのため測定不能とのこと

 こうした解析結果は、日常会話やビジネスシーンにおけるコミュニケーションにも応用可能だとしている。

分析で浮かび上がる「説明できない部分」

 一方で、漫才という表現は数値化できる要素だけで成立しているわけではなく、その場の空気感や観客との相互作用、演者同士の関係性といった定量化しにくい要因も大きく影響する領域である。

 今回のAI分析は「話速」「音域」「間」に基づいているが、漫才の笑いの要因は内容・コンテキスト・文化的背景など多層的であり、単純な声の特徴だけで笑いを説明することには限界がある。

 たとえば、たくろうの漫才における「トヨタ〜、自動車〜!」というボケは、確かに長い間を取って高い声で発せられたセリフである。しかし、そこで笑いが生まれたのは、「無理やりリングアナにさせられた」ネタの状況やそれまでの流れ、おどおどしたキャラクターの相乗効果による影響もあるだろう。

 ここには、“ウケる話し方”はどこまで数値化できるのかという問題がある。数値に表れない、あるいは計測しにくいところにも、人を笑わせ、楽しませる要素があると考えられるからだ。AIの分析により、「説明できない部分」も見えてきた、といえるかもしれない。

漫才の“間”は会議でも正解になるのか

 そもそも、笑いを誘う漫才と、ビジネス交渉や会議での発言は目的も受け手も違う。「漫才の話し方≒ビジネスコミュニケーションに有効」とするのは飛躍だという意見もあるだろう。

 会議での発言やプレゼンテーションにおいて、要所で間を取る、語尾の抑揚を意識するなどで、相手の理解度や受け取られ方は大きく変わるかもしれない。しかし、それが漫才の“間”の取り方とイコールかどうかと言われれば、疑問符が付くところだ。

 このAI分析は単に漫才の特徴を掴むだけでなく、話す力を意識的に磨くことでコミュニケーション全般の向上につながる可能性を探る試みでもある。AIによる分析結果は話し方を見直す一つの指標にはなり得るが、技術の有用性を認めつつも、あくまで補助的な手段としてどう向き合うか、慎重になるべき話題ともいえそうだ。

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