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日本生産性本部の「生産性シンポジウム」レポート

低迷続く日本の労働生産性、「人的資本経営」「デジタル活用」が巻き返しの鍵に

2026年01月06日 11時30分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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戦略的な「人的資本投資」が生産性向上の近道に

 学習院大学 教授の滝澤美帆氏からは、日本の労働生産性を向上させるための方策が語られた。同氏が強調したのは、生産性の成長に裏付けされた「持続的賃上げ」の重要性だ。「生産性を伴わないと、いずれは賃上げもストップしてしまう」という。

学習院大学 経済学部 経済学科教授 滝澤美帆氏

 労働生産性を高めるには、「資本(設備投資やIT投資、無形資産投資など)の増加」と「労働力(スキルや経験、人的資本など)の質向上」を組み合わせて、それを組織やマネジメント、技術で高めていく必要がある。今回滝澤氏が触れたのが、“労働力の質を高める”方法だ。

 前提として日本の労働力(人材)は、「危機的状況」にあるという。2030年をピークに労働力人口が減少していく見通しであるのに加え、滝澤氏は、「勤続20年以上の雇用割合が多い“辞めない国”であり、内部労働市場に依存しすぎた結果、外部から“採れない国”になっている」と指摘する。

 このような状況の中で、DX人材が奪い合いになっているのが現状だ。さらに、OECDの調査(2023年)では日本の29%の労働者が、自身のスキルが仕事に必要なレベルに達していないと回答しており、スキルのミスマッチも顕著となっている。「デジタル化や高齢化によって経済構造が変化する中で、労働者のスキルが追いついていない」(滝澤氏)

 人材への投資も他国より遅れている。日本はGDPにおける「ICT投資」や「R&D投資」の比率こそ主要先進国と遜色がないが、「人的資本投資」の比率は飛びぬけて低い水準にある。

2000年代、2010年代における無形資産投資の比較

 こうした危機的状況を受けて、注目が高まっているのが「人的資本経営」だ。人材をコストではなく資本だと捉え、「人的資本」への投資を通じて企業価値向上を目指す経営を指す。人的資本は、2023年より有価証券報告書での開示が義務化されており、投資家の評価指標としても重要度が高まっている。

 滝澤氏は、「人的資本が好循環するほど企業の成長につながる」と仮説を立て、自身も監修する日経スマートワーク経営の調査データでそれを裏付けている。この循環とは、人材への投資が従業員のエンゲージメントや成長を向上させ、生産性や業績が改善され、賃上げやさらなる人材投資につながるというメカニズムだ。

 2023年の調査では、エンゲージメントが高い企業ほど業績が向上することが実証されており、短期だけではなく長期の収益力向上につながっているのがポイントだという。同調査では、デジタル人材育成と新技術活用に取り組む企業は、離職率が低いという結果も得られている。

エンゲージメントの向上は長期の収益力向上につながる

 また、2025年の調査では、人材活用や投資に積極的な企業、有給取得率や賃金水準が高い企業ほど、生成AIを活用していた。 「新しいテクノロジーやデジタル人材をうまく活用すれば、会社の業績と社員の幸福度の両方を改善できる可能性がある」と滝澤氏。

 一方、現状では、デジタル化が進展すると管理職の負担が増加するという副作用も発生する。そのため、新技術の導入の際には、業務負荷の配分や設計を見直すことで、一部の役職に過度な負担が集まらないよう注視する必要があるという。加えて、新技術において重要なのが「リスキリング」だ。2024年の調査では、リスキリングに積極的な企業ほど労働生産性が高いという傾向が得られている。

 滝澤氏は、「包括的に人的資本への投資を行う企業ほど、優秀な人材を引き付け、生産性を向上させている。すぐには結果は出ずにコストに見えてしまうかもしれないが、長期的視点で人的資本投資を戦略として位置付けることが重要ではないか」と締めくくった。

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