好調な「Dell AI Factory」は“広さ”と“深さ”で他社をリード
「AI活用の遅れは問題ない」 Dell幹部が語る日本市場の強みと可能性
2025年12月02日 09時00分更新
ソブリンAIの成果は間もなく見えてくる
――データ主権(ソブリンAI)の取り組みについて教えてください。
ソブリンAIには3つの異なる次元がある。
第一は「政府のための政府」だ。政府自身がAI中心の組織になることを指し、日本ではデジタル庁などの取り組みがこれに該当する。政府サービスが良くなるという点で重要だ。
第二は「産業のための政府」で、これはデータセンター構築に関わることで、真の主権を持つには国内にデータがあり、コンピュート能力が必要だという考え方だ。英国やオーストラリアでは大学や研究機関に大規模なコンピュートへのアクセスを提供し、中東では石油化学産業が大規模トレーニング環境を利用できるようにしている。これにより、国は基盤モデルや研究環境について自国の選択肢を持てるようになる。
第三は「産業とともにある政府」で、最もエキサイティングな次元だ。政府が権限を活用し、産業基盤を活性化させ、官民パートナーシップを促進する。シンガポールが良い例だ。日本でも、産業がより俊敏に動くための大規模な官民パートナーシップの機会があり、それに対する意欲もあると感じている。
ソブリンAIに盛り上がりを感じないとすれば、それは”キラーアプリ”がないからだろう。いま述べた3つの観点は、いずれも「既存のものを改善する」か「インフラを構築する」ものにとどまり、一般の人々にとって明確なキラーアプリが見えない。
しかし、5年後には状況が変わるだろう。例えば、米国では抗生物質耐性の問題解決にAIが使われている。自然界の化合物を調べ、新しい抗生物質を発見する取り組みで、すでに2つの新規抗生物質が生まれた。
他にも材料科学、個別化医療、癌治療など、大規模コンピュートへのアクセスは、多くの分野で画期的な発見につながる。ただし、これらは深く複雑で技術的であるため、一般には理解されにくい。政府がソブリンAI戦略を持つのは、インフラなしでは解決できない問題があることを、政府や学術界の人々が理解しているからだ。そのインフラを持つことで、研究が加速し、社会が恩恵を受ける。時間が経つにつれて、ソブリンインフラのおかげで実現しているものが少しずつ見えてくるだろう。
「AI採用の遅れは問題ない」 AI活用における日本の3つの強み
―ーAI Factoryの観点で、日本市場はどのように進展していますか?
グローバル全体で見ても、企業のAI活用はまだ初期段階だ。AI投資のROIに満足している企業は非常に少ない。PoCを超えて実装が少しずつ進み始めているにすぎない。
ただし、Dellは例外的だ。我々がカスタマーゼロとしてAIを活用した結果、2024年度の売上は100億ドル増加し、コストは4%減少した。これは41年の歴史で初めてのことだ。これがAI変革による人、プロセス、技術の組み合わせの成果であり、正しく実行すれば、ビジネスに実質的な影響がある証拠でもある。
Dellの日本の顧客も、同じ成果を目指して前進が始まっている。日本のAI採用率が低いという向きも、私は懸念していない。なぜなら、広範なAI採用と企業のメリットは別物だからだ。AIツールを使っているだけでは意味がない。企業がメリットを得るために最も重要なのは、AIツールではなく、データとプロセスへの深い理解だ。これらを理解せずして、AIをどこに適用すべきかを決めることはできない。
私から見た日本の強みは3つある。
第一に、プロセス重視の文化だ。日本企業はずっとプロセスの革新に焦点を当ててきた。課題は、プロセス部分にAIツールを接続できるかどうかだ。他の地域では技術採用は積極的だが、プロセスとデータの理解が不足している。日本は逆で、プロセスとデータは理解しているが、技術採用が少し遅いだけだ。
第二に、技術への文化的受容性だ。日本は技術を恐れていない。この国はロボティクス、モバイルなどをいち早く採用している。文化的に、常に技術に対して前向きだ。これは非常に重要であり、なぜなら技術への文化的抵抗がある国では、アクセスできても使用されないからだ。
第三に、人口減少という課題を抱えていることだ。労働力不足と高齢化により、技術が人々を助け、仕事を代替することが喫緊の課題となっている。
AIで重要なのは、AIツールを重要なプロセスに接続し、データで動かし、本番環境に投入すること。日本はこれを推進できる確率が非常に高い。さらに、技術を採用する際、人々が積極的に使いたいと思う文化がある。
つまり、日本には重要な資産が揃っている。AI導入の初期段階で遅れをとっていたとしても、問題ない。日本はこれらすべての要素において高いポテンシャルを持っているのだから。








