好調な「Dell AI Factory」は“広さ”と“深さ”で他社をリード
「AI活用の遅れは問題ない」 Dell幹部が語る日本市場の強みと可能性
2025年12月02日 09時00分更新
Dell Technologiesの“AI Factory”戦略が加速している。
Dellでは1年半前に「Dell AI Factory」を提供開始。AIシステムに必要なコンポーネントを包括的に提供するフレームワークで、既に3000社の企業が利用するなど好調だ。Dell自身も、AIを活用することで、100億ドルの売上増加と4%のコスト削減を両立させている。
DellでグローバルCTO(最高技術責任者) 兼 CAIO(最高AI責任者)を務めるジョン・ローズ(John Roese)氏に、DellのAI Factoryの強みと、ソブリンAI、そして日本市場について話を聞いた。なお同氏は、日本のAI採用率が低いという見方に対して「懸念していない」と述べ、日本市場のポテンシャルの高さを評価している。
DellのAI Factoryは「規模」「選択肢」「経験」すべてで先行
――DellのAI Factoryとはどのようなものでしょうか。競合他社も似た言葉を使っていますが、Dellでの定義を教えてください。
AI Factoryは、特定のソリューションを指すものではなく、AIシステムを構築するためには、複数のテクノロジー層を含む様々なコンポーネントが必要になるというアプローチだ。具体的には、電力や冷却、コンピュート、ストレージ、ネットワーキング、モデル、ランタイム、ユーザーアプリケーション、データフレームワーク、ユースケース、ガバナンスなどが必要だが、これらすべてを自社で組み立てるのは容易ではない。実際、私がCAIOに就任する前、Dellのみで構築しようと試みたが非常に難しいことがわかった。
同時に、業界の組織化が進むことで、AI Factoryが具体化してきた。これは、異なるユースケースに適用できる、異なるGPUや異なるモデルの選択肢を持つAIシステムだ。Dellはそれらを組み合わせて、特性を評価し、セキュリティやパフォーマンスの期待値を満たすことを確認してきた。そして、すぐに利用できるリファレンスアーキテクチャとオファリングをセットで提供している。
AI Factoryがなければ、顧客自身でサーバーを選び、ストレージデバイスを選び、ネットワーキングデバイスを選び、モデルを選び、それらすべてを連携させ、最適化する方法まで考えなければならない。AI Factoryでは、これらすべてが事前定義されている。多くの場合、ターンキー環境だが、場合によってはサービスとしても提供できる。顧客はそのレイヤーの上から作業を始め、データを特定のユースケースに適用して、本番環境に投入することだけに集中できる。
具体例を挙げると、Hugging Faceとの提携により「Dell Enterprise Hub」を提供している。モデルの管理や選択、検証などの機能があり、事前検証済みのモデルをすぐに使うことができる。デプロイも容易で、Hugging Faceからモデルとランタイムをコンテナで導入し、環境に移動してサーバーで実行するだけだ。もちろんセキュリティ機能として、ロールベースのアクセス制御、ユーザー認証も備えている。
直近の決算発表では、約3000社の企業がDellのAI Factoryを利用していることを発表した。提供開始から1年半の初期段階としては、おそらく競合他社よりも優れた導入実績だろう。
――Hewlett-Packard Enterprise(HPE)もAI Factoryを提供しており、LenovoもAIソリューションを提供しています。そしてこれらのベンダーも、Dellと同様にNVIDIAと提携しています。差別化のポイントはどこにあるのでしょうか?
この1年半の間、DellはAI Factoryの“広さ”と“深さ”の両方で強化を図ってきた。広さでは、モデル管理から電力と冷却までをカバーしており、競合他社よりも多くの選択肢を用意したうえで、これらをより統合された形で提供する。
我々は他社よりも規模が大きく、経験があり、あらゆる面で多くの能力を有している。コンピュート、ストレージ、データ保護、商用PCで市場リーダーだ。最も強調したいのは経験の豊富さ。AI Factoryの源泉は、トレーニングで必要になる「大規模なメガクラスター」である。Dellは、xAIやCoreWeaveなどで世界最大規模のAI環境を構築しており、そこで学んだことをソリューションにフィードバックさせ、成熟度を高めてきた。
サプライチェーンも強みだ。我々はテクノロジー業界で最大規模のサプライチェーンを持っており、約800億ドル相当のコンポーネントが我々のサプライチェーンを流れている。例えば、単に出荷する箱を生産するだけでなく、AIシステムにも組み込まれる。ラックスケールのAIシステムを出荷する際には、Dellの工場で構成・最適化されるため、顧客先ですぐに動作する。多くの競合他社は、製品を部品で出荷し、顧客先で組み立てようとするため時間がかかる。
エコシステムも差別化になっている。Dellはいち早くAI Factoryの取り組みをスタートしているため、モデルやGPU、ISVなどで他社を上回るエコシステムを築けている。
結果として、他社は我々より1年は遅れており、規模は小さく、選択肢は少なく、大規模なAI環境を構築する経験も積めていない。
実際に、Dellは2025年の最初の2四半期で、200億ドル相当のAIサーバーを受注した。2024年は通年で120億ドルだったことを考えると、顧客がDellを認めて選んでいると言って良いだろう。我々はAI分野で、競合他社よりもはるかに多くのコンピュートを実際に展開している。
大規模クラスター構築の学びを「AI Factory」に反映
――インフラではクラウド事業者とも競合します。
クラウド事業者は、自分たちがAI Factoryだと信じている。そして、世界中のどのクラウド事業者も、他のクラウドを使用することを推奨しない。これが根本的に我々と彼らの違いだ。
Dellはマルチクラウドとハイブリッドクラウドを信じている。その信念は、AI時代よりも前の15年前から一貫している。マルチクラウド、ハイブリッドクラウドはAIサイクルにおいてさらに重要だ。AIユースケースの多様性と解決している問題の種類を見ると、広範で多様なインフラセットが必要になるからだ。
例えば、営業部門がデータを活用するというユースケースひとつでも、パブリッククラウド、プライベート環境、エッジデバイスなど、複数の環境へのアクセスが必要になる。単一のクラウド事業者では、この多様性に対応できない。GPUを変更したい場合や、OpExではなくCapExとして消費したい場合のオプションもない。
我々は顧客に対してインフラの再評価を促しており、5年前のインフラをまだ使っているのであれば、それがAIに適しているかを判断すべきと伝えている。一方で、どのようなインフラが必要か、完璧な意見を持っていないことも伝えている。AIがすべてを変えることは分かっているが、まだその全貌は見えないからだ。それでも、インフラ戦略を見直すこと、柔軟性と選択肢を確保することが必要だ。つまり、多様性や分散アーキテクチャが求められ、単一のベンダーや事業者にロックインされるのことは危険ということだ。
また、Dellは、先ほど述べたハイブリッドクラウド、マルチクラウドへの信念から、ほとんどのクラウド事業者と協力している。顧客においても、クラウドからオンプレへの回帰も多く見られる。それは、パブリッククラウドは高価で柔軟性がないことに気づいているからだ。
ーー過去にどのような学びがあり、どのようにAI Factoryに反映しているのかを教えてください。
私は最高AI責任者として、自社でも積極的にAIを採用しているし、顧客からも学んでいる。より良く機能させる方法、問題を解決する方法、コストを削減する方法、優先順位をつける方法などを学び、そのすべてがAI Factoryに反映されている。
ハードウェア側では、大規模なクラスターからの学びを反映させている。xAIは100万GPUクラスターを構築しており、それを我々が支えている。DellのAI Factoryにより、xAIを支える製品を利用することが可能だ。これにより、開発サイクルが約半分に短縮されるなどの成果も生まれている。
今後もストレージ、コンピュートなどのハードウェアフットプリントは、世界最大のクラスターで採用された最先端技術から大きな影響を受けるだろう。
ハードウェア以外の学びとして、ガバナンスとその運用、そして、セキュリティと主権、管理などがある。
例えば、セキュリティは、企業と消費者市場で大きく異なる。自宅でコードを書く際にコーディングアシスタントを使うのであれば、好きなツールを使用しても良いだろう。しかし、自動車に組み込まれるソフトウェア、政府の規制がある分野のコードでコーディングアシスタントを使うとなると、自由というわけにはいかない。AIツールを安全にし、コンプライアンスや規制を満たす方法を考える必要がある。
多くの競合他社はセキュリティ事業を持たず、単にサーバー、ストレージ、インフラを提供しているにすぎない。Dellはランサムウェア保護環境とサイバーレジリエンシー技術を提供する世界最大のデータ保護プロバイダーであり、AI Factoryにもこれらのセキュリティ技術を統合している。
最近では、エージェンティックAIについて、我々は社内で決定を下した。我々が構築したものであれ、サードパーティによって提供されたものであれ、Dellの環境で働くAIエージェントはアイデンティティを持たせるというものだ。
これは理にかなっている。というのも、企業で働く人間は、契約社員であれ直接雇用であれアイデンティティマネージャーに登録されているからだ。エージェントの実装がこれから進むにあたって、このようなセキュリティの仕組みは重要になるだろう。この取り組みはこの秋にスタートし、シリコンバレーのテクノロジー業界全体と緊密に協力して、エージェントがどのように連携するか、相互運用するか、安全であるかについての標準化とアプローチを確立している。我々が最初の顧客として、まずは自社で実践している。









