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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第59回

東映アニメーション 平山理志プロデューサーインタビュー

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ』平山理志Pが語る TVアニメ終了後もファンを純増させた仕掛け

2025年10月21日 15時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●ASCII/村山剛史

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『劇場版総集編 ガールズバンドクライ【前編】青春狂走曲』は現在公開中!

ファンは取り合うのではなく、ジャンル全体の母数を増やす

―― この1~2年で「ガールズバンドもの」は一気に増えました。驚いたのは「トゲナシトゲアリ」のライブでは、ブシロードさんの作品バンドである「MyGO!!!!!」(2025年1月12日「Avoid Note」)や「RAISE A SUILEN」(2025年12月7日予定「RAISE MY CATHARSIS」)との対バンコラボ実施でした。客層が重なるライバル作品ですよね?

平山 バンドには対バン文化というのがありますが、ブシロードさんからお声掛けされたので、「ぜひ」というところから始まりました。作品の性質に合っていることも大きかったです。

―― でも、「お客様の取り合い」になったりなど、心配な点もあるかと思うのですが……。

平山 お客様を取り合うというよりは、ジャンル全体で考えてお客様を増やすほうが良いのではと思っています。

 コラボすることによって、ファン同士の交流が起こります。そして対バン先の作品も面白いなと思って両方の作品を楽しんでもらえれば良いですよね。そうすれば「バンドもの」のファン自体が増えますから。限られたジャンル内の数を取り合うのではなく、ジャンル全体の母数を増やしていくという考え方です。

―― 取り合うのではなく、「コラボすることで母数を増やす」。今どきの発想かもしれません。アニメがパッケージ売りメインだった時代に「パイの取り合い」という言葉を耳にしたことがあります。そのジャンルのファンの数は限られているから、どうやって自社作品に呼び込むかという……。

平山 ただ、円盤時代でも、そのクール(期)に強い作品が1個しかないときと、5個あったときでは、どちらが盛り上がるかというと、5個競合したときのほうがソフトは売れたのです。

―― えっ、そうなんですか!?

平山 はい。売れます。ヒット作が多いときのほうが絶対。お客様がさまざまな作品にハマってくれて、せっかくだからこの作品にもお金も投じようという機運ができて、市場全体が盛り上がるのです。

 だから僕はライバル作品はあったほうが良いです。そちらのほうが市場全体が盛り上がるので。今は「一極集中」「勝敗の二極化」なんて言葉もありますけれど、やはりそのジャンルのファンがみんなで盛り上がったほうが良いと思うのです。

アナログなやり方

―― アニメビジネスとして見た場合、リアルの場からクチコミにつなげるなど、かなりアナログ的ですね。

平山 『ガルクラ』は、今主流のやり方とは違うかもしれません。今のアニメビジネスでは配信権の販売がメインなのです。配信会社の方々に配信権を購入してもらい、そのお金で制作費を回収するのです。人気原作ですと配信権の販売だけで回収できたりもします。

 ところが、オリジナル作品はヒットするか未知数なので、先に配信権を買ってもらって大々的に展開することが難しい。ですからYouTube動画や聖地づくりなど、地道にファンの方にアプローチすることで実績を積み上げていき、その後にようやく配信をお願いできる会社さんが見つかる、というわけです。

 僕らは1980年代あたりの富野由悠季監督や高橋良輔監督の時代と同じ戦い方をしています。「玩具を売って制作費を賄う」ように。今は玩具の代わりに、Blu-rayやCDやグッズを購入していただいて、事業としてようやく成立させています。

―― 玩具の代わりがCDやグッズ。

平山 そうですね。僕自身は、こういったアナログなやり方が性に合っている気がします。それに、「もしアニメが映像の中だけで完結してしまったら、そこまで楽しめるのかな?」という気持ちもありまして。作品に紐付く場所に遊びに行けたり、ショップで買ったモノを家に飾って楽しめたりする。それは作品との結びつきを感じるためにも、すごく大事なことだろうと思っています。

「リアル」を大事にしたい

―― 『ガルクラ』では聖地、ライブなど「リアルの場」を大事にされていますが、物語の特色をあらためてお聞かせ下さい。

平山 『ガルクラ』という作品自体が、アナログであり、地に足が付いている物語です。女の子が上京して悪戦苦闘する中で成長していきます。

 脚本の花田十輝さんの物語を、地に足の着いた作風が持ち味の酒井和男監督と一緒に、バンドやライブのことを本当にイチから、機材の配線がどこからどこにつながっているかから勉強して描きました。さらに川崎という場所を選んだ時点で、地に足が着くどころか、めり込むくらいのリアルな物語になったなと思います。

 現実に、若い人たちが「何者かになろう」とするときってありますよね。そのときは結構辛いと思います。仁菜たちのように家を出て生きていくのであれば家賃が必要になり、バイトもしなくてはいけない。しかも仁菜たちは、音楽という職業になるかもわからないものを人生賭けてやろうとしていますから、辛くても前に進む覚悟だって必要です。

 ……こんな具合でどんどんリアルな話になっていきましたが、そこを描くことは非常に意味があるとも思ったのです。

 人生の「辛いとき」を真正面から描いたアニメ作品って、そんなにありません。ですからやる意味がありますし、人々が暮らしのなかで息苦しさを感じている今の時代だからこそ、視聴者のみなさんの心に刺さるのではと。

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