疾患の高精度な予測を実現し、予防治療や早期治療につなげる
1000種類以上の病気をAIがバイオマーカーから予測 大阪万博でアストラゼネカが紹介
2025年10月10日 09時00分更新
「疾患(病気)が進行し、症状が現れた後でそれを治療する“シックケア”から、あらゆる疾患に対して早期に治療を行い、健康に暮らすことができる“ヘルスケア”の医療モデルにシフトさせる。『MILTON(ミルトン)』はそんなツールだ」(アストラゼネカ バイオファーマシューティカルR&D担当VPのペトロフスキ・スラヴェ氏)
英国の医薬品メーカー・アストラゼネカが、大阪・関西万博の英国パビリオンで行われた「Healthcare Technology for the Future」の中で、診断前に1000種類以上の疾患が高精度に予測できるAIアルゴリズム「MILTON(ミルトン、MachIne Learning with phenoType associatONs)を、日本で初めて紹介した。
AIが約50万人の検査データを学習、高精度な病気の予測を実現
MILTONは、アストラゼネカ グローバル本社が開発した疾患予測AIアルゴリズムだ。英国の医療情報研究プロジェクト「UK Biobank」が蓄積した約50万人のデータから、67項目の日常診療バイオマーカー(年齢、性別、血液検査、尿検査、血圧、肺活量、体格といったデータ)や、3000種類の血漿タンパク質の測定データを用いて、モデルの学習を実施。これにより、個人が特定の疾患にかかる可能性や、疾患を診断される可能性を高精度に予測できるようにした。
スラヴェ氏は、世界総計でおよそ30億人が慢性疾患、がんにかかっている一方で、緊急的な治療の増加、ケアの細分化による診断の複雑化、患者の受診遅れによる疾患の進展などが原因で、各国の医療制度は厳しい状況に直面し、患者側の医療費負担も増えていると説明する。
「(こうした状況を改善するには)早期に病気を理解し、早期に治療することが大切だ。早い段階から積極的なケアを行うことは、患者だけでなく、社会にもメリットをもたらす」(スラヴェ氏)
MILTONでは、ゲノム(ゲノミクス)、RNA(トランスクリプトミクス)、タンパク質(プロテオミクス)、代謝産物(メタボロミクス)などの多様なデータを用いる「マルチオミクス」解析のアプローチに、AI/機械学習のテクノロジーを組み合わせることで、さまざまな疾患の生物学的理解を図る。
研究では、3200の疾患を対象として予測精度を解析。その結果、肺がんや前立腺がん、腎臓病、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アルツハイマー病など1091種類の疾患に対して高い予測精度を示し、そのうちの121疾患では「特に優れた」予測精度が得られたとう。
「通常、疾患は臨床症状が現れた後にだけ診断されるが、多くの疾患は症状が現れる前に始まっている。その時点で医療が介入できれば、予防療法や早期治療につながり、場合によっては命を救うこともあるだろう。ただし、この分野はまだ探索が進んでおらず、早期診断の技術にも限界がある。MILTONが実現する新たなAI技術で、その限界を突破できる」
さらにスラヴェ氏は、世界経済フォーラムが示した「ヘルスケアにおける6つの変革的AIアプリケーション」でも、その1つにMILTONが認められたことを紹介した。












