優れたプロジェクトマネージャーに必要な三つの要素
――プロジェクトをマネジメントする企業や、キーパーソンであるマネージャーには、どんな要素が求められるのでしょうか
カン:PMIは、プロジェクトマネージャーに必要なスキルセットを三つの要素に整理しています。
第一は「技術的スキルセット」です。これは管理の基本であり、開始方法やスコープ設定などです。ただし、これだけでは不十分です。多くの技術的スキルは、ダッシュボードやレポート機能を備えた生成AIで補完可能になっています。毎年発表している「Professionの現状」レポート(Pulse of the Profession)でも、その傾向が示されています。
第二の要素は「パワースキル」と呼ばれるものです。コミュニケーション力、批判的思考、交渉力といったソフトスキルは極めて重要です。プロジェクトマネージャーはステークホルダーの認識を管理しなければならないからです。
第三の要素は「ビジネススキル」です。優れたプロジェクトマネージャーは、財務戦略を理解し、企業や組織の戦略の文脈でプロジェクトを捉えます。環境が絶えず変化する中で全体像を把握できれば、より自信と説得力を持ってプロジェクトを推進できます。プロジェクトスポンサーを納得させるためには、プロジェクトマネージャーは価値を明確に示し、戦略的な優先事項に沿った説得力のあるビジネス上の主張が必要だからです。
まとめると、技術的スキルセットはAIツールで効率化し、その分の時間をパワースキルやビジネススキルの向上に振り向ける。これによって、優れたプロジェクトマネージャーが育つのです。
――「技術的スキルセット」がAIで置き換えられるなら他の二つに注力すべきですか?
カン:「技術的スキルセット」だけに焦点を当てると、その多くが生成AIや各種ツールに置き換えられます。しかしAIで補えるからといって重要ではないということではなく、大事なのは適切な「データ」と「技術」を特定・理解し、AIツールを適切に使いこなし、効率と効果を最大化することです。
生成AIの活用の第一段階は「自動化」です。従来、プロジェクトマネージャーは会議の議事録作成やダッシュボードの報告、スポンサーへの報告に多くの時間を費やしてきました。これらはすべてAIで処理可能です。AIを活用すれば生産性が大きく向上し、以前は丸一日かかっていた作業が1時間で済むようになります。ただし、AIの出力をそのまま鵜呑みにせず、検証することは必ず必要です。
次に重要なのは「批判的思考」です。技術的知識は依然として必要ですが、生産性を高めることで空いた時間を、ステークホルダー管理やコミュニケーション、ビジネス文書作成といった活動に振り向けることができます。つまり、AIを使って時間を削減するだけでなく、空いたリソースをどう活かすかがポイントであり、バランスの取れたアプローチが求められるのです。
――生成AIの活用はいろいろな企業やメディアが調査していますが、日本企業のAI利用率は海外に比べてかなり低いような結果が出ています
カン:ここからは企業や政府レベルでの課題について説明しますが、個人と企業では事情が異なります。企業の場合、最も重要なのはデータ漏洩やセキュリティ対策です。そのため、社内で生成AIを活用するには明確なガバナンスの枠組みを設ける必要があります。
また、自社で大規模言語モデルを独自に構築するのか、あるいは外部のCopilotやchatGPTを採用するのかも大きな意思決定ポイントです。近年、日本の大企業やPMIメンバー企業でも独自AIツールを開発する動きが見られます。私が訪問した多国籍企業でも、すでに社内で独自AIを構築する必要に迫られていました。中小企業は事情が異なるかもしれませんが、大企業では明確にその方向性が出ています。










