奥田民生と吉川晃司のルーツを辿る、広島で撮影した9つの背景
8月に実施されたイベントでは、奥田民生と吉川晃司のユニット「Ooochie Koochie」(オーチーコーチー)の楽曲『ショーラー』のMV制作を事例に、制作スケジュールや効率性、効果的な活用シーンなどが解説されたほか、バーチャルプロダクションで利用可能な背景アセットライブラリ「BACKDROP LIBRARY」や、ソニーPCLの直近の事例などが紹介された。
『ショーラー』MVの事例では、Ooochie Koochieの二人の故郷である広島にスタッフが飛び、学校や商店街など、二人のルーツとなる場所で撮影し、生成した映像が背景が選ばれている。制作は2025年3月上旬に始まり、撮影は2回。ロケーションで撮影した9つの場所の映像が11のシーンに活用されているそうだ。
背景アセットはロケハンののち、スタッフが現地で写真撮影したものから生成。途中テスト送出などの工程を挟み、クオリティのチェックをするといった事前準備の時間も必要だったが、アーティストが入る本番の収録は、スタジオに入りから数えてわずか3時間で完了したという。
撮影に要する時間は平均で1時間強
背景アセットの生成過程について少し具体的に見ていこう。背景素材の撮影は映像イメージに合わせた現地での位置決め(背景位置や演者の位置、カメラの位置の決定)から始まり、「撮影ナビ」を用いたスタジオの背景LED上での見え方の確認、色合わせやキャリブレーション用の素材撮影と照明や構図決めなどリファレンスの撮影を経て、本撮影に入る流れだ。所要時間は平均すると1ロケーションあたり1時間程度だったという。
ロケ撮影では、スタジオでの見え方を踏まえたアングルにこだわれたほか、準備を除けば各ロケーションの撮影時間は短くて10分程度、長くても1時間強と、短時間かつ効率的に進められたそうだ。撮影時間の短さは、日照の変化や天候の変化がある場所での撮影やロケ地で何か突発的なことが起きる前に早めに撮影を終えてしまいたい場合にも有利だという。
効率性という意味では、撮影ナビアプリの存在が重要だ。最適な設定や撮影ポイントをガイドしてくれるため、こうした撮影に慣れていない人でも、3Dモデルの作成に必要なポイントを的確に押さえた高品位な撮影ができるのだという。制作も最小で監督、プロダクションマネージャー、撮影者など3〜4名程度とコンパクトだ。
モデリングの品質は高く、シーンのひとつとして登場する「木定楽器店」では、売り場に並んだギターのひとつひとつの機種がわかるほど高精細。撮影時には奥田さんが映像を眺めながら、それぞれのギターについて語り始めたほどだった。逆に吉川さんが水球に没頭した修道高校のプールでは水の表現に難しさがあったそうだ。こういったエピソードもなかなか興味深い。
既存のCG技術で補うことも必要
このような特徴を持つソニー独自の3DCG生成技術だが、技術的に乗り越えるべき課題もあるという。ひとつは建物のような静止した物体を作るのにはいいが、川の流れのように常に動きがある被写体のモデリングをどうするかだという。
現状ではCGで最初から作ると膨大な時間のかかるオブジェクトを短時間かつハイクオリティに制作できるといった得意分野は活かしつつ、弱点は従来の手法で補うといった使い方が有効になっている。





















